2017030755

陸游は、紹興13年二度目の上京、科挙を受験し、また落第。そのまま都に滞在。この頃陸游は20歳。従兄妹の唐婉と結婚します。
唐婉の母親は唐婉を産んでからすぐに亡くなり、唐婉は陸游のところに引き取られ陸游の母親に兄妹のように育てられました。いつしか二人の間に愛情が芽生たわけです。二人は相思相愛の仲でありましたが、二人の結婚は真に不幸な結果に終ります。

ふたりは毎日幸せな結婚生活を送っ0dd7e33c.jpgていました。
しかし、唐婉と結婚してから陸游の父親、唐婉の父親が共に亡くなります。そして母親の50歳のお祝いの席では唐婉の頭につけていたふたつのかんざしの内ひとつが落ちて壊れてしまいました。これは縁起の悪い事です。
母親は陸游と唐婉が結婚してから、いろいろ不幸が続くので占い師にみてもらいました。
占い師は、陸游と唐婉がこのままでいたら不幸が続くとして、離縁を勧めます。母親も唐婉が子供を生まないこともあり、占い師の話に同調し離婚させることにます。

唐婉は日頃から病弱でしたが再婚します。宋の帝室とも血筋のつながった趙士程と再婚。陸游も間もなく二度目の妻、王氏を迎えます。でも唐婉には、陸游への想いは心の中にいつもありました。陸游もまた再婚はしましたが、唐婉のことを忘れる事はありませんでした。

離婚してから10年が経ったある日、偶然に沈園でふたりは出逢います。唐婉は夫と一緒でしたが、この夫は唐婉の陸游を思う気持ちは分かっていたので、唐婉を沈園に残して帰りました。唐婉は夫の趙士程に語って、酒肴を陸游の元へ届けてきます。
陸遊は邸の壁にこの「釵頭鳳」を書いて立ち去りました。
それを読んだ唐婉も自分の気持ちを「釵頭鳳」として返答の詩を書きます。

釵頭鳳(註1)  陸遊
紅酥手 紅酥(こうそ)(註2)の手
黄縢酒 黄縢(おうとう)の酒(註3)
滿城春色宮牆柳 満城の春色 宮牆(註4)の柳
東風惡 東風 悪(あ)しく
歡情薄 歓情 薄(はかな)し
一懷愁緒 一懐の愁緒
幾年離索 幾年の離索(りさく)ぞ
錯錯錯 錯(あやま))てり、錯てり、錯てり

春如舊 春は旧(もと)の如く
人空痩 人は空しく痩(や)せ
涙痕紅鮫透 涙痕(るいこん)紅く 鮫透(こうしゅう)す
桃花落 桃花は 落ち
閑池閣 池閣(こうかく)は 閑(かん)なり
山盟雖在 山盟在りと雖(いえ)ども
錦書難托 錦書(きんしょ)は 托(たく)し難し
莫莫莫 莫(な)し、莫し、莫し

(註1)釵頭鳳(さとうほう) 作者が無名氏の詩句から作ったという。
鳳(ほうおう)の飾りのかんざしの意味。
(註2)酥 ミルクの類。白くなめらかな意味。
(註3)黄縢酒 黄色な紙で封をされたお酒
(註4)宮牆(きょうしょう)柳 皇居の橋ごしに見える柳。取ることが
できない意味に用いた。

紅く白くやわらかな手で
黄縢の酒をついでくれるが
街一杯の 春景色の中でも取ることにできぬ 禁園の柳のようだ
だから春風が憎い(離婚させた母が憎い)
せっかくめぐり合っても喜びの気持は薄く
ひとたび憂いを抱いて二人の仲を咲かれてから
もう何年間 離れてくらしたことだろう
間違えていた 間違えていた 間違えていた

それでも春はめぐってきたけれど
あなたはただ虚しく痩せ衰え
私はハンカチに涙の痕が頬紅をつたい 赤く染めてしまった
桃の花も散って
静かな池の閣
かって山のように大きい愛の契りは あったものの
想いをしたためた文をもうらこともできない
ああ、もう悲しいだけだ、悲しい、悲しい

前連は庭園でのめぐり合いを陸游のほうから、後連は互いの気持を唐婉の立場から詩いました。

その後、唐婉からの詩が以下の通りです。

釵頭鳳 唐婉
世情薄 世情は薄く
人情惡 人の情は悪し
雨送黄昏花易落 雨 黄昏を送り 花落ち易く
曉風干 暁風 干(かわ)き
泪痕殘 泪痕(るいこん) 残す
欲箋心事 心事を箋に欲せんとす
獨語斜欄 独語し 欄に斜す
難難難 難(なん)、難、難

人成各 人 各々に 成り
今非昨 今は昨に非ず
病魂常似秋千索 病魂 常に千秋(註5)の索くに似たり。
角聲寒 角声 寒し、
夜爛珊 夜 爛珊たり。
怕人尋問 人の尋問を怕れる。
咽泪裝歡 咽泪せしも歓を装う。
瞞瞞瞞 瞞(まん)たり 瞞たり 瞞たり

(註5)千秋  ぶらんこ

世の中は苛酷
人の情けは醜い
日が暮れ始め雨が降り、花が散りやすい
明け方の風は
涙の痕を乾かす。
思うことを文にしたためたいけれど
手すりに寄りかかって 独り言を言いつつ
やっぱり難しい とても難しい 難しい

別々に生きることになった私たち
今日は昨日とは違うもの、
思い悩む心は堂々巡りで ブランコのヒモのよう
角笛の音色が物悲しい
真夜中は過ぎました
人に尋ねられるのが怖くって
本当は泣き叫ぶ心を隠して 楽しげに振舞っている
私は気持ちを騙している 騙している 騙しているの

その後、唐婉は精神的な面も加わり、病気が体を蝕み、30歳の若さで亡くなります。最後まで持っていた唐婉のかんざしだけが陸游の手元に戻ってきました。陸游は生涯、唐婉を愛したことを心に秘めて85歳まで生きました。

この南宋に生きた激烈な活動家であった陸游の恋を、なんだかとても哀しく思えます。いえ、彼が愛し、そして彼女も愛した気持は嬉しいのですが、それが何もうまくいかない。彼女は若くして亡くなってしまいます。
そして、陸游はこの彼女への愛を、その後死ぬまで心に抱き続けます。やはり哀しいです。やっぱり人生を恋だけで考えるのは辛いな。いや陸游には、絶対に中国を宋で統一したいという気持が大きかったでしょうが、同時にこの悲恋の思いが大きかったのでしょうね。

もう二人の娘がいる私は、こうした哀しい愛を知ると、恋よりも、この二人の娘の幸せばかり考えていくことにしましょう。

2つ目の写真は11日の王子稻荷です。やはり、ここにはきつねが集まるのです。

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