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 私の長女おはぎの結婚式も、ホテルオークラ東京ベイでした。ただし、おはぎのときは、一緒に新婦と私が腕を組んでバージンロードを歩くという儀式はしませんでした。
 でも今回は、ブルータスは私と一緒に歩くということでした。

 それでまず教会に、二人と私が入りまして、予行演習をします。だんだんやっているうちに、私はそれが本番なような気になって、「ああ、これでもう終わりなんだな」と思い込んでいましたが、それは当然私の錯覚です。
 それで私たち3人と牧師さん(牧師さんだと思うのですが、神父さんかもしれないなあ)が、教会の前に控え室に入って説明を聞いています。その間にみなさんが教会に入ってくれています。
 さて、それで新郎も牧師さんも教会に中に入り、私とブルータスは控え室を出て、教会の扉の前に立ちます。扉が開けられるのを待っているのです。

 でもそこで、ブルータスは父である私にいいます。

  あのね、パパ! 絶対に詩(うた)を吟(うた)っちゃだめだよ。絶対にやっちゃ駄目だよ!

 私は、「ああ、大丈夫だよ! 今回はやらないよ」と言います。もうその会話ばかりが続きます。
 でも実は、私の胸の内ポケットには、次の詩のメモが入っていました。

   桃夭(とうよう)
  桃之夭夭 桃の夭夭たる
  灼灼其華 灼灼(しゃくしゃく)たる その華(はな)
  之子于帰 之(こ)の子 于(ここ)に帰(とつ)がば
  宜其室家 其の室家(しっか)に宜(よろ)しからん

  桃之夭夭 桃の夭夭たる
  有墳其實 有墳(ゆうふん)たる 其の実
  之子于帰 之の子 于に帰がば
  宜其家室 其の家室(かしつ)に宜しからん

  桃之夭夭 桃の夭夭たる
  其葉蓁蓁 其の葉 蓁蓁(しんしん)たり
  之子于帰 之の子 于に帰がば
  宜其家人 其の家人に宜しからん

 この詩経の娘が嫁にいく詩を私は吟いたいつもりでした。

 でもこの詩は少し長いから、詠えないかもしれません。だから、私はもう一つ七言絶句も用意していました。

   春風     白居易
 春風先發苑中梅 春風先(ま)ず発(ひら)く 苑中の梅
 櫻杏桃李次第開 桜杏桃李(おうきょうとうり) 次第に開く
 薺花楡莢深村裡 薺花(せいか)楡莢(ゆきょう) 深村の裏(うち)
 亦道春風爲我來 亦(ま)た道(い)う春風 我が為に来たると

 この七言絶句なら、1分40秒くらいでできます。
 しかし、私は教会の扉の前で、しつこいくらいにブルータスに確認約束させられていました。でも思えば、ブルータスらしい、いい結婚式でしたね。
 私は、「やっぱり俺の娘だなあ。詩吟はやらせてもらえないんだ」となんだか無理やり納得していました。
 思えば、教会で神様の前、教会の扉が開く寸前に、ブルータスと私はそんなことを言い合っていたのですね。

 写真は同じく31日午後1時半くらいの王子柳田公園。私はただ焦って走っています。