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 陶淵明の「飲酒」の四番目の詩です。

   飮酒 其四  陶淵明
  栖栖失群鳥 栖栖(註1)たり 群を失へる鳥
  日暮猶獨飛 日暮れて 猶ほ独り飛ぶ
  徘徊無定止 徘徊して 定止するなく
  夜夜聲轉悲 夜夜(やや) 声は転た悲し
  匐岨彑怯 匐繊蔽陦押法\怯鵑鮖廚辧蔽陦魁
  去來何依依 去来 何ぞ依依(えいえい)たる
  因値孤生松 孤生の松に 値(あ)へるに因り
  歛カク遙來歸 カクを歛(をさ)めて 遙かに来り帰る
  勁風無榮木 勁風(けいふう)に 栄木(えいぼく)無きも
  此蔭獨不衰 此の蔭(かげ) 独り衰へず
  託身已得所 身を託するに 已に所を得たり
  千載不相違 千載 相ひ違はざらん

  (註1)栖栖(せいせい) せわしいさま
  (註2)匐繊覆譴いょう) 激しい叫び
  (註3)思清遠(せいえんを思ひ)

  群れにはぐれた鳥がせわしそうに、
  日が暮れてもなお一人飛んでいる。
  徘徊して一箇所にとどまることなく、
  夜毎に泣く声はいよいよ悲しい。
  激しい叫びは遠くの仲間を求めているのか、
  行きつ戻りつして後ろ髪を引かれているようだ。
  一本ぽつんと立っている松を見つけると、
  翼を収めて身を休めた。
  冷たい風に大方の木は葉を落としたが、
  この松だけは緑の影をたたえている。
  身を託するには心強い、
  千年たりともここからは離れずにいつまでもここにいよう。

 いつもこうして陶淵明の詩を読んでみて、私があまりに、陶淵明のことを知らなかったことに、いらいらしています。
 私はちょうど、この同じ時代に、符堅(ふけん)という英雄が居たことを思い出します。この符堅は中国五胡十六国時代に華北を支配した前秦の帝王です。
 この前秦の符堅が大軍を率いて中国全土を支配しようとして江南の東晋軍とが382年に肥水(ひすい、ひは「肥」にさんずいがついています。現在の安徽省寿県の東南)で激突しました。前秦軍は100万の軍勢だったといいます。
 だが、符堅の軍勢は、ここで東晋の軍勢にやぶれます。なんだか、私は中国の東晋の側に身をおきたいはずなのですが、このとき破れた符堅のほうに思いを寄せてしまうのです。符堅は、おそらく碧眼茶髪の容貌だったと思われます。その符堅が破れたときの哀しみを思います。私は昔府中刑務所にいたときに、この符堅のことを何度も書いております。
 思えば、このときに陶淵明はちょうどまだ18歳でした。東晋の勝利に胸を躍らせただろう陶淵明を思います。

 写真は18日の夕方、王子の駅まで行く途中、柳田公園近くで撮りました。これはどうみても桜ですよね。