10111107 私の次女ブルータスはどらエモンが大好きです。部屋にはどらエモンのさまざまグッズがたくさん置いてあります。とくにどらエモンの映画が好きなようで、ビデオ屋で借りて繰り返し見ていたものでした。
 小さなときのブルータスをビデオ屋に連れていくと、私がヤクザ映画のビデオを探していると、ブルータスはいつもどらエモンの映画のビデオを手にとって、「これはどんなお話だっけ?」と私に聞いてきたものでした。何度か見ているのですが、まだ小さいブルータスは覚えきられなかったのでしょう。
 そんなどらエモンが出てくる夢をきょうの朝、私は見ていました。

 夢の中でブルータス(彼女の名前はサヨコといいます。どらエモンの話の中ではやはり本名のほうがふさわしい)は中学生のようです。
 朝もうサヨコは学校へ行ってしまっていまして、家には私しかいません。私ももう出勤しようという時間です。サヨコの部屋には、いくつものどらエモングッズがありますが、とくにどらエモンを小さくしたようなおもちゃの像が二つありました。
 ところが、そこへ変などろぼうがやってきまして、このどらえもんのおもちゃをもっていこうとします。ちょうどハクション大魔王に似たような悪党泥棒のようです。私が大声をだしますと、その悪党は、あわてて、どらエモンのおもちゃを一つかかえて逃げ出します。
 これには困りました。一つを盗まれてしまったのです。「サヨコが悲しむな」なんて思って、困りはてていますと、もう一つ残っていたどらエモンのおもちゃの像が、突如本物のどらエモンに変わりました。

 よし、取り返しに行こう! パパさんも一緒に行くんだよ。

と私を誘います。そうか、私も一緒に行こうと気持をひきしめて決意しました。でも一体、あいつはどこへ逃げたのだろうか。
 どらエモンは、そこにある金魚の水槽を指さします。

 この中に逃げたんだよ。

 実は金魚の水槽と言っても、少し大きな水槽で、泳いでいるのは、本物の金魚ではなく、みなおもちゃの魚や貝です。
 でもどうやって、この水の中に入るのだろうと思っていると、どらエモンが指さしたところのガラス面に、細い穴が空いています。え、こんなところへ逃げたのか。でもそんな小さなところに、どうやって入れるのだろう。
 私は躊躇しているのですが、どらエモンはすぐに私の手を引いて、その中へ飛んでいきます。どらエモンは、左手に、大きなバケツをもっています。綺麗なおもちゃのようなバケツですが、フタがしてあって、どうやらその中にはいろいろな道具を入れているようです。「武器もあるのかな?」

 でも、どらエモンの道具って、お腹のポケットじゃなくて、バケツで持って行くんだ。
 なんて思っているうちに、敵の本拠に着きます。そこはたくさんのおもちゃの国でした。探し歩く中、急にどらエモンに、大勢の悪いおもちゃが飛びかかって捕まってしまいます。でも、どらエモンは落ち着いていて、隙を見て、バケツの中から武器を取り出して、みんなをやっつけます。相手は目を回して降参します。

 どらエモンのおもちゃをどこへやった

という私とどらエモンの問いに、その目を回している連中は、すぐそばにある地下へ伸びている階段を指さします。
 でも、私はなんだかそこへ入るのは怖いのです。どらエモンは、

 パパさん、ここで待っていてよ

と言って一人で入っていきます。随分その階段は深くて、何層にもなっているようです。だんだん、私の問い掛けに答えるどらエモンの声が小さくなります。
 少し心配になってきたところで、突如、また新手の悪いおもちゃたちが大勢でやってきて、この階段の上から、たくさんのものを投げ入れてしまいます。どらエモンを閉じ込めてしまおうというのでしょう。これはわなだったのでしょうか。
 でも、私は少し安心もしています。さきほどの戦いで、どらエモンのバケツの中の道具の強いことを見ていたからです。
 やはり、やがて、どらエモンは、その階段の奧から、なにもかも爆破して飛び出してきました。悪いおもちゃたちは、また目を回しています。でももう一つのどらエモンを盗んだ悪い奴(こいつが相手の親分のようだ)はいません。またその部下たちに聞くと、そいつはまた別な世界へ逃げたようです。またどらエモンは、そこへ行こうとします。だけど、そこで私は気がつきました。私は、もう会社に行かなければいけない時間なのです。

 どらエモン、またあいつを追うのは日を改めようよ。もうパパは会社にいかなくちゃいけないんだよ。

 いくらか、どらエモンとのやり取りがありましたが、私が会社に行かなくちゃという決意が固く、どらエモンも、「じゃ、また改めて来よう」ということになりました。
 私はもう会社に行くのだから、どらエモンには、サヨコの部屋に帰ってほし
いと言いました。

 どらエモンなら、また飛んで帰ればすぐじゃないか。

 でも、どらエモンは悲しい顔をして、

 仕事の邪魔しないから、会社の隅に置いておいてよ

といいます。私は仕方ないなあと思い、かつどらエモンを一人で帰すのも可哀想だなと思って、

 じゃさあ、どらえもん、元のおもちゃの姿に戻ってよ、そうしたら、この鞄に入って持っていけるよ。だけど、パパはお客さんのところへ行くから、事務所で一人でいるんだよ。

といいました。だがどらエモンは、もうしばらく、この姿でいたいといい、私に抱っこされたいといいます。
 もう普通の世界に戻っていた私は、それじゃと、左手で、ビジネス鞄を下げて、右腕で、どらエモンをかかえました。どらえもんは小さいのですが、どっしりしています。保育園に入った頃のサヨコくらいの大きさです。私が右腕でかかえているどらエモンのお尻は柔らかくて、あかちゃんのお尻みたいで、そして、やさしい感じです。
 私がしっかりかかえると、どらエモンは私の胸に顔をうずめます。そして小さな声でいいます。

 あのおもちゃの像が何体かないと、ボクはこうしてどらエモンになれないんだ。

 え、そんな話は初めて聞く話です。こうしてどらエモンが活躍できるのも、もともとのおもちゃのどらエモンがいるかららしいのです。だから普段はおもちゃとしてじっとしていて、いざとなったら、こうして活躍できるのです。でもそのおもちゃは、だんだん古くなったり、棄てられたりしてしまうから、そのうち、どらエモンは消えてしまうしかないのです。それで、どらエモンが必死にもう一つのおもちゃを探した訳が判りました。
 私が、

 そんなことなのか。それなら、あのおもちゃをいくつも買っておこう

というと、どらエモンは悲しそうに、「もう、あれは生産していないの」といいました。

 え、でもあれを取り返せば、ずっといられるんだろう?

という私の問いに、どらエモンは悲しそうに答えます。

 あれを取り返せば、もう少しいられるけれど、サヨちゃんが大学生になる頃には、ボクはもういなくなってしまうしかないんだ

というのです。私も「そんなもう何年もないじゃないか」という思いに、どらえもんをじっと抱きしめました。そして涙が私の頬を伝わってきました。悲しい、悲しいよという思いです。サヨコが大人になっても、ずっといてくれればいいのに。
 悲しい思いで涙を流したときに、私の目が覚めました。

 なんだか、はっとしてしまいました。「なんだ夢だったんだ」。あらためて、サヨコの部屋に行って、どらエモンのたくさんのグッズを眺めました。みなどれも同じ場所にそのままいました。
 また夢の世界で、どらエモンと一緒にあの悪党のところへ行って、あのどらエモンのおもちゃを取り戻したい。今度は私が必死で戦います。
 でも、そんなことができるのかな。(1999.11.25)