10121709 これは「花とゆめ」という雑誌に連載されていた漫画です。
 女性向けの漫画というと、どうにも読む気にもなれないものが多いのですが、これは大変に楽しい漫画です。

書名  動物のお医者さん  全12巻
著者  佐々木倫子
発行所 白泉社
定価  1冊390円

 北大(と思われる)の獣医学部での大学生活を描いた漫画です。主人公ハムテル(勿論本名は別にある)とその友人の二階堂という二人の獣医を目指す学生と、その担当教授漆原教授や1年先輩のもう社会人である菱沼聖子を中心として、楽しくばかばかしくも学園生活が展開されていきます。そして、獣医学部ということもあるのでしょうが、いろいろな動物が出てきます。
 ハムテルの家で飼っているのが、顔はいっけん怖ろしいが、じつはやさしいシベリアンハスキー犬「チョビ」、どうしてか関西弁のネコ「ミケ」、ハムテルの家での最強の生物ニワトリの「ヒヨ」、いつも幸せそうなスナネズミが大事な登場人物としていきいきとしています。そして、それに頑固で元気なハムテルのおばあさんも大事な登場人物です。そしてもう一つ、大事なのは、舞台が雪国である札幌ということでしょうか。

 私はちょうど昭和29年に札幌で小学校に入学したのですが、そのころから札幌という街は妙にハイカラで垢抜けた感じのする、はっきりいって私には好きにはなれない街でした。この漫画が描いているのは、もちろん現在に近い札幌なのでしょうが、何故かよく札幌の雰囲気をとらえているように思えます。雪の季節にいろいろな行事を作って遊んでいるしまうところなんか、よくあの街を思い出してしまいます。
 またこの大学での学園生活の描き方ですが、これもまたよくあるように思います。私なんかは学生生活といえば、それこそ学生運動ばかりだったのですが、それにしても、ここに描かれているように、けっこう楽しく過ごしたものでした。大学の先生方とも、職員の方々ともよく付き合いました。私なぞはそれこそもう、自分とは関係ない学部の先生方からも、いろいろと目をかけてもらいました。それはいまでも続いています。
 登場人物のなかで菱沼聖子という、とても変わった女性が、もう就職したのに、毎日のように大学の研究室にやってきて、またいつもなにか引き起こしているのもよく判る気がします。もっとも、この女性がこの漫画からいなくなると、とても寂しくなるでしょうから、作者としても、このままにしておくのは当り前だと思われますが。

 それと、やはりこの中で描かれる動物たちがなかなかいいのです。先に紹介した登場人物以外にもたくさん出てきます。この動物には、こんな習性があるのかなんていつも興味深く読んでいくことができます。これからの社会では、多分こうした動物と人間のふれ合いが大切なものになってくるでしょうから、そんなときにこのように動物と人間の関係を描いてくれることはいいことだなと思います。この漫画読んで、「ああ、私も獣医さんになりたいな」なんて考えてくれる子がでてくれば、嬉しいことだなと思うのです。
 12巻にて、2、3年後にハムテルと二階堂が一緒に動物病院をやるであろうというようなところで、この漫画は終わりとなります。私はこの二人と菱沼さんがいずれ結婚してほしいな、そして漆原教授がその結婚式の披露宴で、どんなことをするのか、喋るのかが愉しみだったのですが、それは、もう判らないままで終わりました。

 さてそれで、私がこの漫画を読んでて一番思うことは、この著者は、けっして自分の過去の体験や思い出からは、この漫画を描いてはいないであろうということです。おそらくは、彼女は、こうした雪国札幌も、こうした学園生活も、こうした獣医学のことも、すべて何も知らなかったはずです。ただただ、自らの克明な取材と丁寧な研究のみで、この漫画を展開していると思われます。それは読んでいてさまざまに感じるところがあるわけなのですが、そこがこの漫画を読んでいくところの面白いところなのです。この著者が、自らその取材に必死になっているときに、私たちは読んでいて大いに笑うことができるのだと思います。それが、他人まかせになってしまったら、それこそ魅力ないものになってしまうでしょう(もっとも10巻の最後には、勝手な著者のために、必死に資料集めに走り回るマネージャーの姿を描いていますが。だが、ああした自らの姿を書けることは、やはりよく判っているのだなと思います)。 もっと先の話が読みたいなと思いながら終わってしまった作品でした。(2004.02.28)