11010103書 名 加算混合の発想
著 者 大前研一
発行所 プレジデント社

 この本でまず読みたかったのは、「6.安全-原子炉から経営戦略まで」という章です。全文抜き出してもいいようなところなのですが、その一部です。

   徹底したフェラル・セーフの思想
  原子炉の設計においては、常識では考えられないようなフェラル・
 セーフの思想が貫かれている。失敗しても安全、ある装置が作動しな
 くても他の装置が動く、という、幾重もの守りがついた設計になって
 いるのである。
  MIT(マサチューセッツ工科大学)で原子炉の設計を教えていた
 のは、アメリカ原子力委員会の委員をしていたトンプソン博士である。
 彼は自らMIT炉の設計を手がけ、この分野では聖書ともなっている
 『原子炉の安全』という大作を残している。
  彼の授業はいつも緊張に満ち、また将来原子炉設計者たらんとする
 私たちに、安全設計の思想を徹底して教え込んだ。今でも印象に残っ
 ているのは、ある日彼が新潟地震で崩壊した橋の写真を見せて、「こ
 れでこの設計者の一生は終りだ」と言いったまま、長い沈黙を保って
 いた光景である。
  設計者にとって、自分の計算ミスから大事故につながるぐらいみじ
 めなことはない。だからこそ原子炉の設計者は、独自の安全係数をポ
 ケットにしまい込んでいるのである。このため、しゃへい体は厚くな
 り、燃料ピンの被覆も厚くなる。また、炉の出口温度は実際よりも高
 く計算されがちになる。設計にたずさわる個々の人が、自分の担当し
 たところに少しでも余裕をもたせようとした積み重ねの結果である。

 技術者や科学者は常にこうした姿勢であるべきだし、これこそが技術者だと思うのです。

  絶対的に安全な装置などありえないから、おまえは科学技術の現場
 にあって技術にたずさわること、あたらしい技術を開拓することをや
 めるかといわれれば、わたしならやるにきまっている。危険な装置の
 個所や操作の手続きに不安があれば、何度でもおなじ実験をくりかえ
 して、対応の方法を見つけだすまでやる。それが技術家の良心だ。
         (吉本隆明「試行1989.2号情況への発言」)

 吉本さんもおなじことをいっていると思います。
 この大前研一のこの文は、原子力発電に関するかなりすぐれた文章であると思います。
 この本の題名の加算混合とは、

 (略)赤、青、緑……と混ぜてゆくうちに、だんだんと減色し、つい
 には無色となってしまう、という加算混合の現象を想い浮かべていた。

というところにあります。日米経済戦争でいえば、アメリカ人が外圧と感じるものと日本人が外圧と感じるものを混ぜ合わせれば、そこに透明な真実の姿が見えてくるという主張です。それを「日米自動車戦争」という章で、模擬公聴会という想定問答で書いてあります。いまブッシュの前での宮沢首相なんか、ここのところ読んでいけばいいのになと思いました。いやたぶん読んではいるのだろうけれど、結局わかってねえんだよな。
 しかしこの本が1980年に書かれていたなんて思えません。いまでもいきいきとした著者の発想が伝わってきます。(1988.11.01)