2018061102書 名 神様にえらばれた子どもたち
著 者 宮城まり子
発行所 海竜社

この題名を見た時、昔読んだ羽仁五郎「都市の論理」に「罪のないこどもたち」という節があったのを思い出しました。羽仁五郎はかなり私も批判のある人ですが、その都市に関する考察なんかかなり参考になるところあると思います。
ルネサンスの時に「罪のないこどもたちの育児院」という美しい建築物があり、フレンツェという自由都市ではじめて捨て子や私生児を解放したと書いてありました。封建制社会の中で自由都市がこどもたちを解放していたということなのでしょう。
ねむの木学園が、ほんとうは、東京にも柏にも我孫子にもあったらいいと思います。私学園ですから、都市からはなれたところにしか開園できなかったのでしょう。もっと私たちと私たちの子どもと身近なところにあったらと思うのです。
宮城まり子がねむの木のこどもたちを「神様にえらばれたこどもたち」というのは、読んでいるとその通りだなと思います。だけど何故こんなに神は世界は不条理なのでしょうか。この本を電車の中で読んでいて、なんどもなんども本を読むのをやめました。満員電車の中でもまた涙でいっぱいになってしまいそうなのです。

今、二十歳以上の子どもたちを、二十人を、みていて、私の力
のなさを感じます。
男の子の方には、お母さんになったり、恋人ちゃんになったり
しますけど、女の子のボーイフレンドには、なれません。
十五歳のときには、考えなかった男の人のことも、結婚も、夢
みる女性になって行くのです。手や足のハンディは、結婚のさま
たげになるのです。
これは本当のこと。哀しいけれど、もっと、考えることが、ゆっ
くり来てくれたらなと、思ってしまいます。

「……ね、あなたが、えらんだことじゃないの。悲しいと思うこ
とばっかりよね。はしれないこと、あるけないこと。でもね、そ
の代わり、目と耳と鼻があって、たとえば目が、不自由だったら、
聴覚、耳で感じとることが、おおくなる。鼻で感じることがおお
くなる。手や足が、不自由だから、がんじょうな人より感じるこ
とが敏感になって、絵をかいたり、詩をかいたり、花が、あんま
り美しくても、涙が出るわ。
そんなやさしくて強いあなた方だから、その不自由に耐えてい
けるって、神様は、思われたのよ。そうよ、心もよ。
他の子なら、耐えられない力を下さったと思うの。つまり、あ
なた方は、神様から選ばれた子どもたちなの。
だからお願い。悲しいことがあっても努力してちょうだい。つ
らいことがあってもがまんしてちょうだい。そのぶん、神様は、
あなたを守って下さるの。
ね、みんなは、誇りある、神様にえらばれた子なのよ」
教室で、私は、涙がぼろぼろこぼれ落ちていました。だって、
こんな安っぽいなぐさめで、切った足は、はえて来ない。立てな
い足は、立てない。わかっているんですもの。でも、こんな遠ま
わしにしか、失恋のなぐさめは、全員の前で、いえなかったので
す。なんという思い上がり、あなた方は、神様からえらばれた子
よ。

子どもたちが、カンボジアの子のかいた恐ろしい絵を見る。けいちゃんという脳性マヒの後遺症で知恵遅れの子がいう。

「ぼくね、ぼくね、さっきのカンボジアの子どもの絵、こわかっ
た。あの子、かわいそうだね。ね、あの子は、ああいう恐ろしい
景色を見たから、かいた。ぼくには書けない絵ね。
あの子、あんな生活しているんだね。かわいそうね。ぼくは、
戦争にあったことないから、かけない。ぼくは、今、しあわせだ
から、こういうしあわせの絵をかくのね。
でもね、ぼく、小さいときのこと、おぼえているんだ。おとう
さんとおかあさんが毎日なぐりあいのけんかして、お酒のビンな
げつけておかあさんどこかへ行っちゃった。おふろも、ドラムカ
ンのなかに、会社のあまったお湯もらってきて入れて、はいった。
外でねた。ぼく、こわかった。
その生活を今もしていたら、ぼく、戦争の絵でなくても、その
心の絵をかいている。きっと、その心の絵は、この絵と同じでしょ」
大きく見ひらいた目から、涙が流れ落ちそうにとまっていた。
この子が知恵遅れであろうか?

なんだか今こうして書いていても涙がでてきます。世界は不条理だし、私たちはあまりに無力です。
人間年をとればとるほど、だんだんがけっぷちにおいつめられていくような感じをもつものだとは吉本(吉本隆明)さんの言葉です。若いときは、もう少し年をとればなにか余裕ができるようになると思い込んでいるのですが、実は逆なのですね。そこで、そのがけっぷちでも見事に立っていける自己を確立することが大事なのだと思います。それを吉本さんは「自立」というのでしょうけれど。私にはこの宮城まり子さんがそのがけっぷちで力強く立っている姿を想像できます。私もはやくそうなりたいと思うのです。
最後に一番印象にのこった子どもたちのことばです。

「……しんぶんにかいてあったの、車イスの人みたら、押してあ
げましょうって。ねぇ、車イス押すの、あたりまえじゃないの?
どうして、押してあげましょうっていうの?」

(1995.11.01)

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