長い間、日本（いや世界でも）で一番長い小説だと言われてきたものです。でも今ではこれを越えた小説はいくつもあります。山岡荘八『徳川家康』、栗本薫『グイン・サーガ』等が書かれてきたものです。その『グイン・サーガ』も未完ですが、この『大菩薩峠』も未完です。もともと著者は、世界最長の小説を書きたいという思いだったようです。幕末の安政５年に甲州の大菩薩峠で一人の老人が惨殺されます。この老人を斬ったのが、机竜之助で、この武士が主人公でこの物語は展開されます。
やがて机竜之助は京都へ行き、新選組に属するなど現実である実際の世界にも足を踏み入れます。このときにちょうど天誅組の蜂起のときに、彼は弾爆の破裂の場にいることになり、失明します。だが失明しても、彼は実に剣だけは強く、その後甲州、江戸と流れて辻斬を繰り返します。なんというかな、誰に聞いてもこの机竜之助の頭の中、心の中はまったく判りません。
この机竜之助を敵（かたき）とするのが小説の最初にされた老人の孫お松と、弟を殺された宇津木兵馬が一緒に旅をします。そして机竜之助の息子郁太郎もこの小説で大事な存在です。
私の友人で、最初生まれた息子にこの郁太郎という名前をつけてあり、私が「あ、『大菩薩峠』か」と言って、その通りだったことがあります。
この物語が最後はグァム島で、そこにいる郁太郎たちの声を聞いているつもりで私はいたものでしたが、もうそれっきり、遠い物語になってしまいました。
そういえば、私はこの中里介山の他の作品もいくつか読んだものでした。彼が戦前というか明治期に社会主義へのシンパシーをいだいていた頃の作品です。
中里介山は、１８８５（明治１８）４月４日～１９４４年（昭和１９）４月２８日の生涯でした。またこの小説を読むこともないでしょうね。（2010.01.23）
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