11022308書 名 虎よ、虎よ!
著 者 アルフレッド・ベスター
訳 者 中田耕治
発行所 ハヤカワ文庫

 私たち人間が目の前にしている現在は、時間と空間というものの中で存在しています。誰もこの二つを自在にすることはできません。しかし、これがもし自在に移動できたらどうだろうかというのは、SFの世界では大事なテーマです。
 25世紀の世界、人間はジョイント効果と呼ばれる瞬間移動能力を手に入れています。ただし、移動できるのは空間であり、しかも惑星の間は移動できません。しかしこのジョイント効果がもたらしたものは、古い秩序の崩壊であり、倒産、恐慌、飢餓そして惑星間戦争でした。この時代の中で、顔に虎の入れ墨をされた男ガリヴァー・フォイルの強烈な復讐の物語がこの作品なのです。彼はどうしてかジョイント効果でも、さらに時間の壁をも超えることができたようです。そこにこの作品でのさまざまな謎が出現してくることになります。
 だが今の私たちには、この時間と空間を超えるというのは、かなりな別な要素をもってこないと魅力を感じないものになっているように思います。むしろこの作品においては主人公の復讐への強烈なパトスがこの時間と空間の壁をも超えることのできたもののように思います。したがってその主人公の情念が分からないと、あまりにこの物語にひきつけられることはないのではと思ったものでした。(1998.11.01)