11052606「本の雑誌」の発行人目黒孝二さんは、私がいつも本の紹介を参考にしている人です。椎名誠が昔勤めていたあるデパートの業界誌の後輩で、その縁で今「本の雑誌」をやっているわけです(椎名誠は「本の雑誌」の編集人)。たいへんな読書家というよりも、「活字中毒者」とまで言えるほどの、読書好きです。

書 名 活字三昧
著 者 目黒孝二
発行所 角川文庫
1996年1月25日第1刷発行(92年9月に単行本として刊行)

 実は、私はこの人と本を読むことについて競争をしている気が少しありました。だが、この本を読んで、「もうまったくこの人には足もとにも及ばない」と分かりました。この人は、年間1000冊の本の読破を目指しているというのです。目標が1000冊ということは、きっと950冊くらいは実現できているわけでしょう。私は年間300冊を目標にして読んでいるだけです。これはもう、問題になりません。
 しかも読む量の問題だけではなく、この本を読むと、著者の読む本の種類の幅の広さにも驚きます。そしてその幅に広さの一つ一つの中で、さらに深く深くその中に入り込んでいくのです。そしてその幅が広いということが、たくさんの著者の本やいろいろな業界の本を読むということだけではなく、各社の文庫本のことでも、過去数度あった文学全集のブームのことでも、実に詳しく迫っていくのです。
 たとえば、彼の蔵書のことではないのですが、次のようなことを書いています。

  数年前に、ある読書人の書棚を見て感心したことがある。その
 人は数多くの文学全集の中からディケンズの巻だけを買い、自分
 の書棚にディケンズ・コーナーを作っていたのだ。これが見事だっ
 た。
  中央公論社・世界の文学から『大いなる遺産』、筑摩書房・世
 界文学体系から『荒涼館』、集英社・世界文学全集ベラージュか
 ら『リトル・ドリッド』、河出書房・世界文学全集グリーン版か
 ら『二都物語』『クリスマス・キャロル』、講談社・世界文学全
 集(昭和42年スタート)から『オリバー・トゥイスト』、同・世
 界文学全集(昭和49年スタート)から『エドウィン・ドルードの
 謎』、新潮社・世界文学全集(昭和2年)から『世の中』、同・
 世界文学全集(昭和35年)から『デイヴィット・コパフィールド』
 と、各社から一巻ずつ買い求めると、ディケンズの代表作の大半
 がそろってしまうのである。
  これはディケンズだから出来ることで、他の作家ではこうはい
 かないだろう。        (「大ロマン全集を待望す」)

 このような関心を持つこと自体が私にはすごいことだなと思ってしまうのです。私は、「リトル・ドリッド」「エドウィン・ドルードの謎」「世の中」の3つの作品は読んでもいませんし、作品名すら知りませんでした。「ディケンズ全集」というものが刊行されていないのですから、私も「荒涼館」とか「デイヴィット・コパフィールド」は、上の全集で読んだ(「荒涼館」は筑摩でも「文学体系」ではなく、2段組みの文学全集だったと覚えている)のですね。あとは、文庫本やその他で読んだものだと思います。
 私はディケンズが特別に好きだというわけではありません。ただ、英語をやっている人が比較的接することの多い作家であることで「知らないとまずいかな」なんて思いで読んできました。私が英語ができるわけではないが、内容を知ってりゃいいだろうなんて思いだったのです。あるときにアルバイトで使った学生が、卒論で「デイヴィット・コパーフィールド」をやっていたというので、「読んでいて良かったな」と思ったものです。いろいろと話すことができたからです。なんとなく、私のもつ思いと、目黒さんのもつ本への思いも似たとこもあるのではないかと思ったところなのです。なんとなく、作品を楽しむとか、その作家が好きだということではない、こだわりなのですね。
 しかし、それにしても目黒さんの年間1000冊の量と私の300冊では、かなりな差があるものですね。悔しいのですが、「俺はその差700冊分を、大酒飲んだり、詩吟やっているんだぞ」ということで、自分を慰めています。(1997.08.15)