11101002 何年か昔の話です。
 私の事務所の近くに、24時間やっています立ち食い蕎麦屋があります。私には割と美味しく感じられる蕎麦で、私はよく徹夜する夜や、徹夜あけの昼すぎによく利用していました。また働いている方たちもいい感じの方が多いのも私には気に入っていました。
 私はほとんど、てんぷら蕎麦を食べていたのですが、ある頃からメニューに加わった「ねぎ蕎麦」もよく食べていました。昔から蕎麦屋にあるねぎを入れた蕎麦ではなく、ラーメン屋にある「ねぎそば」の日本蕎麦篇というものでした。蕎麦の上に、ねぎを中心とした具を乗せてくれます。そして、この具は前もって作っておいてあり、冷蔵庫にいくつもその具を入れておきます。
 あるとき、徹夜あけで、そのまま仕事を続けており、ちょうど午後2時半頃になって、「あ、何も食べてないな」という思いで、この店に入りました。そのとき店には、40代前半の男性と同じく40代前半の女性店員がいまして、お客は男性が一人、もうすぐお蕎麦を食べ終わるころでした。私は、いつものねぎ蕎麦を頼みました。私は急に空腹を覚えていました。
 二人の店員は、猫の話をしていました。女性の方が猫が好きなようです。以下その二人の会話と、( )内が私のそのときの心の中の気持です。

 男性店員「猫が好きなのなら、それはもう夏目漱石の『我が輩は
        猫である』を読まなきゃだめだよ

 女性店員「いや、私は本当の猫が好きなのよ。でもマンションだ
        から飼えないからね

 男性店員「猫といったら、もう漱石の『猫』を読まなきゃいけな
        いよ

  (そんなこといいから、早く蕎麦をくれ、冷蔵庫を開けろ
 女性店員「猫が飼えないから、こうして写真集で見てるの
  (と言って、猫の写真集を見せるのだが
 男性店員「たしかに漱石は難しいけれど、読んでいけば理解でき
    ますよ

 (だから、早く蕎麦をくれよ。俺は腹が減っているんだ
 (男性は、やっと冷蔵庫を開けて、蕎麦を作るのだ
 女性店員「私が好きなのは、本当の猫で、でも飼えないの
 男性店員「もう猫なら、漱石を読まなきゃ、何もならないよ
 (私は蕎麦を口に入れましたが、「なんてまずいんだ」

 私はもう蕎麦を半分もたべないで、店を出ました。二人はまだ、噛み合わない猫の話を続けています。
 私はもう、「漱石の猫といっても、『我が輩』だけじゃなく、エッセイもあるんだぞ。そもそもあれは、迷亭君の話やなにかが面白いんであって、そこらにいる猫の話じゃねえよ。とにかく普通に蕎麦を出せよ」と呪っていました。
 それから、私はこの店に2度と入っていません。
 これって、笑い話にもなるのかな。ならねえよな。