11101207 4月20日の夕方のことです。私はある女性とひさしぶりに会う約束でした。まずは、私の事務所にパソコンやインターネットの話をしに来る予定でした。
 彼女とは、私が昔港区赤坂の広告制作会社にいたときに知り合いました。彼女は隣の会社で、英語を使って子どもたちをアメリカに連れていくような仕事をしていました。私がちょうど32歳のときでした。
 私は広告制作のチーフプロジューサーとして、この会社に入ったのですが、そのときに最初に驚いたのは、自分の会社ではなく、隣の会社に圧倒的な美人の彼女がいたことです。彼女は、誰もが憧れるような綺麗で格好いい女性でした。
 この彼女とは、彼女が他の仕事についてからも、私が別な仕事についてからも連絡だけはとっていました。彼女が私のようなどうでもいいおじさんとつき合ってくれたのは、私が子どものいるお父さんだったからでしょう。それにしても、もう20数年のつき合いになりますね。
 それで、彼女は、北区の自宅で魚屋をやるようになったのですが、お兄さん、お父さん、お母さんと亡くしまして、老舗の魚屋をやめて、別な仕事につきました。それで、また私と会おうということになりまして、私の事務所に来る約束をしたのです。
 彼女は私の事務所に来るのはひさしぶりなので(15年ぶりくらいでしょう)私が御茶ノ水駅前まで迎えにいくことにしました。時間はちょうど午後5時すぎの頃です。彼女には御茶ノ水口で待っていると伝えておきました。
 私が「もう着く頃だな」と思いましたら、私の携帯が振動します。「あ、彼女だな」と思いまして、携帯を見ますと、なんとなんと、私のクライアントの親しい飲み仲間であるN氏からです。「なんだよ、いったい、この大事なときに!」と少々怒り、かつとまどいまして、電話に出ました。

 N「あ、先生!、今どこにいるの?
 周「御茶ノ水だよ、何の用?
 N「あ、良かった、俺たちも御茶ノ水についたよ、何しているの
    ?

 周「え、今から女性と会うところだよ、どっか別なところへ行っ
    て!

 N「いいじゃない、もう階段登るよ

というところで、電話を切ると、彼女が改札を出てきました。「やあ、ひさしぶり、足は大丈夫(彼女は少し前に足を骨折していました)?」といいますと、彼女が答えてくれる声を聞くと同時に、彼女のすぐ後ろに、N氏の顔が見えます。さらにそのあとにN氏のクライアントのF部長の顔です。
「なんで、こんなことになるんだ、なんで人生はこんなことになるんだ」と思っていますと、彼女の前にやってきまして、

 N「あ、はじめまして、私は萩原先生の友人です。でも前にお会
    いしていますね?

 彼女「えッ!
 周「会っていないよ、会っているわけないだろう
 N「それじゃ、みんなで飲もうか!
 周「一体、何しに、御茶ノ水に来たの?
 N「だから、萩原先生と飲みに来たんじゃないか、(彼女に向かっ
    て)ご一緒に飲みましょうね

 周「あのね、彼女は私と用があるの、だから私の事務所でパソコ
    ンの勉強するんだよ!

 N「じゃ、それが終わったら、一緒に飲みましょう。萩原先生!
    こんな美人を独り占めしちゃ駄目だよ。どっかで飲んでいるか
    ら、終わったらすぐ来て!

 かくして、私と彼女は、私の事務所に向かい、N氏とF部長は、その先に向かいました。
 私の事務所に入ってしばらくすると、N氏から電話が入ります。

 N「すぐ行ったところを左折してすぐの2階のいい席で飲んでい
   るよ

 かくして、私は彼女とひさしぶりの話をする間もなく、かつ、「なんとかずらかろうか」ということもできずに、30分そこそこで、彼らのところへ向かうことになりました。
 私の事務所から30秒ほど歩いて、「あ、どこかな」なんて思ったら、頭の上から部長の声がかかります。N氏は熱心に携帯で喋っています。
 かくして、4人で乾杯します。「あ、なんでこうなるんだろう」。ところが、

 N「T先生も呼んだからね
 周「え、そんな、呼ばなくていいよ、ここは俺の縄張りなんだか
    ら、もういろんな人を呼ばないでよ

 N「もう呼んじゃったよ、もう来るよ

 もうかくして、すぐ5名になりまして、また飲みます。せっかく私は彼女とひさしぶりだったのに、もうさんざんです。彼女にずっとN氏が話しかけて、もう私はただただ日本酒を飲み始めました。
「悪いことはできないもんだな、でも彼女にとっては、これのほうが良かったかな」と思ったものです。やはり、たくさんの人と知り合うのは彼女にとっていいことなはずです。

 さて、その2日後、私はまたN氏からの携帯に悩みました。N氏は先日会った彼女に、ある仕事を依頼したいというのですね。私が思いましても、いい時給でいい仕事です。それで彼女に連絡とると、彼女も話を聞いてみたいというのですが、スケジュールを合わせるのが大変です。でもN氏の執拗な要請で、この日22日に私の事務所で5時半頃会うことにしました。彼女は、この日は写真のモデルの撮影の仕事があるが、私がそのあとに会おうと決めました。
 ただ、彼女の仕事が早めに終わりました。そこで電話すると、N氏は仕事でちょうど北区の区役所に向かうところでした。それが終わって私の事務所に来ると、やっぱり遅くなってしまいます。

 N「それなら、また御茶ノ水まで行くのは、無駄だから、御茶ノ
    水と王子の真ん中で会おう

 周「それなら、どうしようか、私は谷中がいいなあ
 N「谷中は真ん中じゃないよ、ちょうど真ん中というと、浅草の
    神谷バーだな、神谷バーにしよう

ということで、「浅草が真ん中ではない、浅草はここからは不便だよ」「いや、浅草はどこからも便利なところだ」なんていう論争をしまして、私は負けました。でもなんで浅草なんでしょうか。
 それで彼女が来まして、「かくして、浅草の神谷バーになった」ということで、神谷バーに向かいました。
 ちょうど夕方5時頃、神谷バーに入りました。店はいっぱいの人です。生ビールを飲んで、彼女の最初の就職の頃の話をしていました。彼女はアメリカでホームステイをしていたこともあるし、あるお寺で修行していたこともあります。
 30分くらい経ちまして、N氏が大騒ぎでやってきます。彼は食券を買わないで、店員に直接お金を渡して注文するのです。店員の名前をみんな知っているのです。結局私は電気ブランを3杯飲むことになりました。
 しかし、しかし、せっかく圧倒的な美女と2人きりで会える機会があったのに、何故かこういうことになってしまいました。悪いことはできないものなのかな。
 でも実は、この日もそのあとも私は飲み続け、驚異的なことに、自宅で寝ていた自分を発見しました。浅草の裏で飲んでいたまでは覚えているのですが。
 そして翌日、驚いたのですが、私は翌日また飲んで、最後谷中の「浅野」へ行きましたら、私は前日も夜遅く、この店に来たといいます。私はまったく何も覚えていないのです。でも、結局この日もひたすら飲みました。