12010113 前回の江角マキコのことで、そのときに思い出したことがありました。それを「周の掲示板」に書いていたのですが、それをまた書いてみます。

 なんだかしつこいのですが、また書きます。
 私が、最初

むしろ江角さんの自らの未加入を知っていながらあの迫真の演技ができるのはさすが役者根性だなーとして評価されてもいいのでなないか。

を読んだときに思い浮かべたのは、映画「江分利満氏の優雅な生活」の新珠三千代です。
 これはたしか山口瞳「酒飲みの自己弁護」に書いてあったと思うのですが(たぶんというのは、今あるべき本だなに、この本がないのです。焦っています)、江分利の妻夏子役が新珠三千代なんですが、彼女が、江分利の母親が亡くなったときの演技が「凄い」のです。いや「凄い」としかいいようがないのです。
 新珠三千代は、そのシーンで、ただときどき目に手を当てるだけなのです。それが「これはすごい女優だな」と感じさせてくれます。
 このすごい演技のことを山口瞳が、直接新珠三千代に聞きます。このときの新玉三千代の応えがこの「酒飲みの自己弁護」に書いてあるのです。
 この映画「江分利満氏の優雅な生活」は、本来は川島雄三が監督として撮る予定でした。ところが彼が突如亡くなります。山口瞳と実に昼から痛飲して(その飲んでいる途中で、川島は銀座で大岡昇平と大喧嘩したといいます)、
その後10日後の次の日に、ある編集者から、山口瞳に電話がかかってきます。

  先生、すぐ酒を止めてください

山口瞳が、「いったい何のことか」ととまどっていると、

  昨夜、川島雄三さんが亡くなりました

と伝えられます。川島雄三も、山口瞳と同じ大酒飲みでした。
 新珠三千代は、この川島雄三のお通夜のときの、川島夫人のしぐさを、ただただ見ていまして、それをそのまま真似ただけだと山口瞳にいうのです。
 これが私には、すごいのです。すごい演技です。これこそ、役者魂です。新珠三千代は、自分の義理の母(江分利満は山口瞳自身であり、その母親は、のちに「血族」の主人公です)を亡くしたという体験はありませんでした。それで、この川島雄三監督の奥さまのしぐさをつぶさに見ていまして、それをそのまま真似ただけなのです。
 この映画は岡本喜八監督に引き継がれて、完成したわけですが、この新珠三千代のこのシーンが私には一番記憶に残ります。

 今回の江角マキコの出来事でも、彼女はあの演技をする際に、何を思い浮かべたのでしょうか。おそらく、結婚していた時、国民健康保険のこととか、夫とは話したのではないでしょうか。彼女も働いているから、別々の保険証を持つことになる、彼女の保険料は、夫ではなく、彼女の通帳から自動引落にするとかなんとか。それなら、当然国民年金のことも話したのではないでしょうか。彼女の年金は、彼女の所得から支払うから、彼女の通帳から自動引落にするとかなんとか。彼女はそんなことも一切関心のない妻だったのかな。

 私の亡くなった親友の堀雅裕さんは、実は晩年は、かなり身体が悪くて、悪いというのは、彼は歩くのも、仕事するのも非常にきつかったはずなのです。もう満員電車で通勤するのもきつかった。だから彼はバイクを使っていた(しかも、このバイクを2台使っていた、自宅の近くと、会社の近くと。でも、実に私はこの頃知ったのですが、実はバイクは3台あったといいます。どう使い分けていたんでしょうか)。でもこのバイクが彼が死ぬ事故につながりました。
 でも彼は、サラリーマンになったのがおそくて、そして身体がきつくても、懸命にサラリーマンとして貫徹しました。それは、とにかく厚生年金の受給資格が得られるまでは、働こうとしていたのです。彼は自分の命が長くないのを知っていたのです。
 そして、ちょうど受給資格を得られてすぐに、彼は亡くなってしまったのです。だから彼の残された奥さんには、今遺族年金が支給されています。奥さんはこのことを区役所で教えられて、号泣したといいます。おそらく彼は、そのことを考えていたのです。
 彼は私と同じで、いつもいつも大酒を飲んでばかりでした。私と同じような、少々欠陥人間だったかもしれません。でも、私は彼が笑顔で私に語りかけている気がしています。

  あの女(彼の奥さんのこと)はサ、口うるさくて、萩原さんは
  気にいらないだろうけれど、俺には、いい女房だったんだよ。だ
  から、俺はやるだけのことはやったろう。

 だから、あんなに身体がきつくても、通勤していたんだ、新聞記者を貫徹したんだと思います。

 江角マキコも、夫婦のときに、そんなことを、ほんの少しでも思い浮かべなかったのでしょうか。いや、夫婦のときは、そんなことを考えなかったというのなら、あの演技のときに、こうしたことを学んで、演技に生かそうとはしなかったのでしょうか。

 惚れた女に愛想がつきたときに、その理由(わけ)が実に思い浮かべるのも馬鹿馬鹿しい。