わたしにとって「軒遊び」の年齢にふさわしい一番あざやかな情景は、素通しの硝子障子で戸外と区切られた玄関の土間に、どっかり据わり込んで、ぼんやり外の方を眺めたり、兄と姉が小学校へ出かけてしまった留守に、母親と二人だけで静かなあまり、こっくりこっくりそのまま居眠りしていた記憶だった。母親は針仕事で足袋や靴下の破れをかがっている。ときどき台所のほうで家事をする。わたしは軒よりも少々内側で硝子障子の内側から、外にみえる鳩の群れや、堀割を隔てた向こう岸の小学校の建て物や、道路を隔てた鉄材置き場をぼんやり眺めている。「おく手」の方だったから、たぶん四−五歳だったと思う。
（「幼年期」2002.6.30彩流社『まえがき』）
私には、この時期の記憶はあまり思い出せないものです。秋田に住んでいたときだから、住んでいた家の周りの風景や一緒に遊んでいた近所の子どもたちの思い出は甦ります。なんにしても遠い思い出です。おそらく、母と一緒にもっと思い出しておけばよかったなというも考えています。
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