2012年05月30日

吉本隆明鈔集476「女性」

12052804 これは、漱石の小説みたいな、特に『ぼっちゃん』に出てくる、坊っちゃんをかばってくれる老女がいます。お手伝いさんというか、ばあやさんですね。そういうのがいます。それが漱石の年取ったときの理想の人だったんでしょうね。そういうふうに書かれているから。若いときに、兄に将棋の駒をぶつけたら血が出た。それでおやじに言いつけられて、おやじから勘当を言い渡されたときに、その老女は、「私が代わりに謝るから許してやってください。この坊っちゃんは、素直で正直でとてもいい人柄です」と言って、かばってくれた。坊っちゃんが松山に行くときには、「坊っちゃん、偉くなったら私をまた雇ってくださいね」と親戚の家に身を寄せます。でも坊っちゃんはちっとも偉くならないで、先生を辞めて鉄道職員か何かになります。「ばあや、帰ったよ」と尋ねていくと喜んで、坊っちゃんも「じゃあ一緒に暮らそう」と。そういう人がいいですね。文句なしですね。
『老いの超え方』2006.5.30朝日新聞社「第一部身体」

 このことは、実は私にはよく理解できないことでした。「坊っちゃん」は少しも面白い小説ではなく、ばあやさんのことも理解できませんでした。なんだか、少し暗くて、私が溶け込めない小説にしか思えませんでした。でも今になって、すべてが判ってきたような気持になりました。漱石には、あのばあやが理想だったのでしょうね。そして吉本さんにも同じなのです。それが私は今になって、やっと理解できた気がしています。年を取るということは、無駄なことではないのですね。



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