1304100113041002  いつの日かは、この的矢六兵衛もこの黒書院を去るときが来るとは思っていました。だがそれが実際の時になると、言いようのない気持になってしまいます。私は涙を流していました。

「どこへ行くのだ、六兵衛」

 もう隼人がこう声を出してしまうのが分かります。そしてそれは隼人だけではないのです。

 ・・・・・・、黒書院をみっしりと囲繞(いにょう)する人々のすべてが、異口同音にそう呟いた。

 私も呟いてしまいます。そこで隼人は分かるのです。

13040909 ここに及んで、隼人はついに悟ったのだ。けっして物言わぬ六兵衛は、流れゆく時と変節せる人心の中にあって、母なる国の花のごとく風のごとく変わらぬ良心そのものであった。

 なにかそれが読んでいる私の心にも伝わるのです。

「もういい、加倉井さん。あんたはよくやった」
 勝安房が隼人を抱きとめた。

 私は勝安房はあまり好きにはなれないのですが、ここはよくやってくれた、よくぞ言ってくれたという思いです。