2017010901

11010904書 名  ぼくんち熱血母主家庭-痛快子育て記-
著  者 下田治美
発行所 講談社文庫

 本を貸してくれる人がいて読んでみたものです。著者は1947年生まれとありますから、私より1歳年上です。ちょうどこんな感じの女性たちは何人もいるように思えます。みんな元気で頑張っている女性たちです。
 ただし、この著者は女一人で男の子を育てています。こどものりゅうの母親と父親役をいっぺんにやっています。このりゅうがおなかにいるときに離婚して、それからずっと二人でやってきた母と子の家庭のお話なのです。
 私は最初の方で著者であるはるさんが、りゅうを産むところの表現がたいへんに面白く興味深く読めました。

  背骨が中心からまっぷたつに裂けるような断続的な痛みのなかで、
 ふと、“つるん”という感触があった。赤ん坊が出たのだ。
  細長いトコロテン突きから、網目を通さずにトコロテンがすべり落
 ちたようないきおいだった。落っこちなかったかしら、と私は不安に
 なった。地球の人口がひとり増えるという重大なセレモニーにしては、
 安易すぎないだろうか。      (「ひとり親家族のルール」)

 そしてはるさんはふしぎな悲しみにとらわれます。いままで一緒だったのに、きゅうにひとりになってしまったような悲しさなのです。「子どもは、私のものではない」。はるさんは他の女性たちに、この出産の時の悲しみをきいてみますが、みんな「感動した」というらしい。……私は男だから判らないのですが、このはるさんの感じ方のほうがなんだかうなずけるような気がするのです。子をもつこと自体は、感動であったり、さまざまあるのでしょうが、出産自体はどうなのでしょうか。感動というより、悲しみというはるさんの感じ方もよく見ておきたいなと思いました。

 この本のなかで一番興味深く読んだのは、「番外・『いじめ』実戦記」というところです。これは現在小中学生の子どもを持っている親にはぜひ読んでほしいなと思いました。
 はるさんがいじめにあっているのかなというりゅうにいう言葉がなかなかいい。

 「なにか困ったことがあったら、いつでもいいな。はるさんはいつも
 おまえの味方だ。もしおまえが人殺ししても、はるさんだけはおまえ
 の味方だってことだけ、覚えておきな」
 「かまわない。殺すには何かの理由があったって思うから。世間じゅ
 うから糾弾されても、はるさんだけはおまえをかばう」

 そして学校なんか休め休めという。そしてはるさんは「いじめ」について考え付くかぎりのことを学びはじめます。
 りゅうはやはり母子家庭だから「いじめ」にあうみたいなのです。これは間違いないことだと思われます。

  いじめ解決の第一段階は、学校を休むことである。本人は「行かね
 ばならぬ」と思いこんでいるだけで、胸をわくわくさせて「行きたい」
 のではない。学校を休んでも、「こっちはちっとも困らない」という
 姿勢を打ちだしておくことは、重要な戦略だと思う。

 はるさんが学んだいじめの実態を列挙してあるところはかなり参考になると思いました。いくつか抜き出してみましょう。

 一、教師はいじめの事実を知らない。子どもは知られるのをいやがる。
 一、教師が知っても、「いじめられる側の親が神経質だ」と逆に非難
  するおそれもある。事態の収拾を面倒がる教師も、実際にはいる。
 一、いじめるという行為は、「優越感」に支えられている。自分の優
  越感を証明するものが何もない子は、「おまえは劣っている」とい
  じめることによってしか、優越感を得られない。だからいじめっ子
  は、優越性を維持するために、果てしなくいじめを継続する。
 一、教師は子どもの意識を変えることはできようが、親の意識は変え
  られない。したがって、どんな有能な教師でも、このようなケース
  のいじめは矯正できない。矯正は、その親だけができる。
 一、いじめを闇から闇へ葬ってはいけない。クラス全員の親たちに訴
  え、「教室内の事件」として、とりあげるべきだ。そうしないと教
  室内にいじめが頻発するようになる。

 はるさんは個人面談で担任に直談判する。りゅうも先生に報告する。だが最悪の事態になる。りゅうは手酷い報復にあったのだ。

 「三年生なんてまだ子どもで、先生が怖いものだと思っていました。
 先生に叱られれば、いじめはやめると、私はすこし期待していたので
 す。でも早速きのう、息子は言語の絶する報復にあいました。精神が
 壊れてしまいます。もう、『絶対にいじめない』という保証がない限
 り、学校にはやりません」

 もうはるさんはこのことしか繰返さない。このはるさんの姿勢は全く正しいと思います。ここで親がいい加減に妥協しては何も解決しないでしょう。
 とうとういじめっ子の親を引きだし、いじめをやめさせます。はるさんが学んだ解決法どうりにはできなかったのですが、読むほうもどうやらすこし安心します。この親であるはるさんの姿勢のみがこのりゅうのつらい日々を救ったといえると思います。
 その他、別れた夫(つまりりゅうの父)との関係とか、はるさんの子育ての考え方とかさまざま読んでいけます。
 この著者にはまだ興味もてる作品があるようですから、今後また読んでいきたいと思いました。(1998.11.01)