11050703 なんだか読んでいて随分昔を思い出します。昔はみんなこんな感じで生きていたなあ、と。

書  名 三好さんとこの日曜日
著  者 三好銀
発行所 小学館

 三好さんという夫婦と梅という猫の一家の毎日曜日が淡々と描かれます。著者自身の日常のことなのでしょうか。
 私たちが20代の中頃は、みんなこんな感じの生活でした。たいがい同棲していたりして、中には猫買っている夫婦もいて、こんな日常がありました。この漫画と違うところといえば、この漫画では三好夫婦の生活は現代のことだから、部屋数は多いみたいだし、着る服も私たちの時よりたくさんもっているようです。あと違うのは、私たちはしょっちゅう集まっては飲んでいたことでしょうか。
 ちょうど「ガロ」でつげ義春読んだり、漫画アクションの上村一夫「同棲時代」の展開にはらはらしたりしたものです。狭いアパートで泣いたり笑ったり、騒いだりしていたものです。私たち埼大の元活動家連は、実に女性はしっかりしていました。男どもはみんなときどき土方のアルバイトしていたりで、酒だけは毎日飲んでいた。また多くの後輩たちが運動をやっていて、まだまだごたごたしていた時代でした。しかしよく私たちは食事は作っていましたね。夫婦によっては交替でやっているのと、毎日じゃんけんで決めているのもいた。なんだかとにかく貧しくて、悲しかったな。
 でももうそんな生活はなくなってしまいました。もうみんな子どもができたし、もうばらばらになってしまいました。奥さん含めてみんなで集まれるのは、お葬式のときくらいになってきました。

 それがこの漫画を読むと、その時代をまだ今でもそのまま生きているような夫婦と猫一匹の生活があります。あとがきにこのようにあります。

 「まさか自分がこんな職業につくなんて、思ってもみなかった」
 私はこの様な発言を見聞きする度に、不思議で、そしてうらやま
 しくて仕方なかった。一度でいいから、実感としてこの様な言葉
 を行って見たいものだと思っていた。それ位、今までの自分の生
 活が、なんとなく予想通りで意外性に乏しいもののように感じら
 れたからだ。だけど最近、どうもその感じ方は間違っていたのか
 もしれないと思う様になった。

 私はよくクライアントの若い社員などから相談を受けます。「人生は一度しかないのだから、若い今こそやりたいことをやりたい」というようなことです。私はいつもそれに否定的に答えます。人生を一つの職場、一つの仕事で淡々と可もなく不可もなく生きられるならそれが一番いい生き方なのだ、と。きょうと明日のことくらいしか考えず、世界で何が起ころうと、ただ自分の子どものことくらいしか心配せず、ただそのまま老いていくような生活者が一番いいんだ、と。
 私は相談する彼彼女の両親のことを聞きます。たぶん子どものこと考えて、単調に生きてきたと思える親が多いと思います。それは大事で立派な生き方なんだと、私は主張します。そしてあなたもそれを真似ていけばいいのだと、私は言うのです。
 そして大事なのは、そのような生き方が素晴らしいにもかかわらず、実際には誰もそのようには生きてこられなかったということなのです。私の両親には、あの戦争がありました。彼らの親たちにも、大変なことがあったはずです。ただそれをなかなか見ることはできない。子どもからみれば、なんてつまらない単調な生活をおくってきたのかとかしか分からないものなのです。

 三好夫婦と猫の梅にも毎日単調な日々が続きます。別に特別なことは何もおきません。「あの問題でもやっぱり自民党はよくない」とか、「原発は危険だ」などという人物が出てきたり、言葉がならんだりするわけでもありません。夫婦に危機がおとずれる訳でもありません。ときどき梅に何かが起こるくらいです。
 私なんかが、結局やり続けられなかった生活を、この三好夫婦はそのまま続けています。たぶんこのまま続くのでしょう。絵は若い夫婦ですが、本当はもっと年とっているのではなどと想像します。
 とにかく読んでいて悲しく、優しくなれる漫画です。そしてなんだか力強くもなれた感じです。(1993.11.01)