この少女はゲーテが愛した女性です。ゲーテが生涯をかけて書きました「ファウスト」において最後にファウストを天上に導くのがこの女性なのです。ファウストはゲーテ自身であり、それは第一部でグレートヒンという女性なのですが、これはゲーテが１４歳の時に恋した３歳年上の女性です。だがこの女性は架空の女性であり、本当はこのフリーデリケ・ブリオンなのです。
ゲーテの「ファウスト」はそれまでのファウスト伝説を打ち砕くだけの迫力があったと思います。どう考えても、ファウストよりも魅力のある悪魔メフィストフェレスをなんだか、悩みある存在に思わせ、そしてなおかつファウストこそが私たちのさまざまなる思いを体現してくれている人物に思えるからです。
私はゲーテ「ファウスト」の最後のシーンを読むと、今も涙がこぼれます。契約に勝利しているはずのメフィストフェレスに天使たちが薔薇の花を投げつけます。天使の中にいるのは、グレートヒンです。第１部でのマルガレーテです。私はゲーテの「詩と真実」におけるグレートヒンが少しも好きでないので、なんで「こんな馬鹿女がこんな大事なところで出てくるのだ」という気持でしたが、実はこのグレートヒンは、名前だけであり、この薔薇の花を投げる少女は実はゲーテが愛したフリーデリケであることを随分前に知って、それこそ涙を流しました。
第１部におけるマルガレーテ（グレートヒン）の悲しい叫びを、ゲーテは極めて真面目に昇華している気が私はしています。
第１部の最後の「赤ちゃんを助けて」というマルガレーテの声が、私にはどうにも悲しくて悲しくて仕方なかったのですが、やはりゲーテはそれへの答えをきちんと用意してくれているかと思います。
メフィストフェレスは、最後に薔薇を投げつけてくる後ろにいる神に対して「お前の行為はやくざ行為だ」といいはなっててもいいはずなのに、何もいわず後退してしまいます。メフィストフェレスはどうしてかそれに対抗できません。
どうみても、ファウストはメフィストフェレスとの契約に負けたのです。ですから契約通りにするのが当りまえです。それが、それまでの「ファウスト伝説」でした。だが、どうしてそうならないのでしょうか。これがゲーテの新たな「ファウスト」なのだと思います。
このメフィストフェレスのこの時の態度のヒントは、「ファウスト」の最初の神とメフィストフェレスとの対話にあります。神よりもずっとしたたかに見えるメフィストフェレスですが、彼には、
結局、悪魔である自分も神に造られた存在なのだ
という認識を正確にもっているのです。だからこそ、彼は神におおいに皮肉をいいます。彼には、
俺が、悪をなすことが、結果としては神のためになってしまう
のだ
というところなのです。これがゲーテの神の解釈なのでしょうね。
ゲーテのことは、まだまだ語っていきたいなと思っています。
次もゲーテに関したものです。読んでみてください。
私はゲーテのたくさんの恋人たちの中で、フリーデリケが一番好きです。思えば「若きウェルテルの悩み」のロッテは少しも好きになれません。次に好きになれるのはリリー・シェネーマンかな。
それと、この「フェウスト」だけでなく、ゲーテは「ウィルヘルム・マイステル」もいいですね。高橋和己「邪宗門」において、主人公千葉潔が琵琶湖のボートの中で、ゲーテのことをいうシーンがあります。私はこの小説の中に入り込んで、「何を言っているんだ」という気持になります。もっとまっとうにゲーテを読んでくれよ。
ゲーテはいつも読んできました。何度も何度も読んできました。一体何が一番好きになれるかなと考えてみました。ゲーテのナポレオンに対するいくつもの言葉が一番好きかななんて思いました。(2001.02.26)