11022808書  名 バブルの経済学
著  者 野口悠紀雄
発行所 日本経済新聞社

  最初に以下のようにあります。

  私は、本書の執筆に、偏見といってよいほどの大きな予断をもっ
  て臨んだ。それは、バブルが悪だ、という判断である。 
                                          (「まえがき」)

この立場から論を展開していきます。

  この過程は、幸いなことに、中途で終った。日本経済はいま苦
  難の時期にあると一般に考えられているが、もっと後になって振
  り返れば、バブルによってこそ日本経済は崩壊していたのであり、
  それが中途で終ったのがむしろ喜ぶべきことだとみなされるだろ
  う。バブルが崩壊すると日本経済も崩壊するのではなく、逆に、
  バブルが崩壊してはじめて経済発展への展望が開けるのである。
  日本は、いま正常な姿へ復帰する路を歩んでいる。
                                            (「まえがき」)

  私はバブルに対するこの著者にいうことに納得はできないのですが、とにかくみていきましょう。ではそもそもバブルとは何なのだというのでしょうか。

 資産価値があがるものとして本来は収益と利子率の変化があるといいます。たとえば地価でいえば、開発による土地利用価値の上昇とか、都市に人口や産業が集中するために価値が上昇することなどが収益の変化であり、いま一つは利子率の低下による資産価値の上昇という変化です。これがファンダメンタルズ価格の変動といわれます。

  実際の資産価値とファンダメンタルズ価格との差は、「バブル
  (泡)」と呼ばれる。つまり、「バブル」とは、現実の資産価値
  のうち、ファンダメンタルズで説明できない部分を指す。このよ
  うに、「バブル」とは、曖昧な概念ではなく、経済理論上は正確
  な規定がなされている概念なのである。「バブルの経済理論」)

 このバブルがいかに歴史の上で現れたのかの記述が一番この本の中では面白かったのところです。

  特に、有名なものとして、一六三四〜三七年のオランダにおけ
  るチューリップ狂事件、一七二〇年頃のフランスにおけるロー・
  システムの崩壊、同時期のイギリスにおける南海泡沫事件、そし
  て、現代でのバブル物語としての一九二〇年代のアメリカを取り
  上げよう。          (「歴史に見るバブル事件」)

  どれもに共通するのは、「苦労せずに金もうけがしたいという欲望」が人々をひきつけたということでしょうか。しかしどれも明解な原因の究明はできていないようです。

 チューリップ狂事件というのを見てみましょう。
 この花は一六世紀に西欧にもたらされ、珍重されるようになりました。オランダで変種づくりが盛んになります。まれな品種の球根が投機の対象になり始めます。そうすると栽培にまで関係しない人までが参入するようになり、やがて実際の球根が渡されなくても取り引きされる先物取引が導入されます。一六三〇年代の中頃になると、価格は途方もない水準になり、最上種でない球根一個でさえ、「新しい馬車一台、葦毛の馬二頭、馬具一式」と交換可能になったといいます。しかし一六三七年二月四日殺到した売りにより市場はパニックに陥り、価格は暴落します。

  崩壊の日付が異常なほどの正確さで記録されているにもかかわ
  らず、なぜ投機が崩壊したのか、その理由はいまになっても分か
  らない。二月一日まで全く順調に行われていた取引が、突如とし
  て崩壊したのだという。実体から離れたバブルが頂点に至って自
  己崩壊を起こした、としか説明しようのないものであろう。
                        (「歴史に見るバブル事件」)

 私たちからみたって、たかがチューリップの球根ですから、これが投機の対象になるなんておかしいし、崩壊しても当りまえに思えます。もうこんな馬鹿げたことは再発はしないでしょうと思うのが当然ですね。
 しかし、そうではなかったのです。今度はヒヤシンスでした。チューリップ狂事件から約一〇〇年後同じオランダで、また同じことがおきたのです。またヒヤシンス栽培の専門家ではない人々が先物取引に走りました。一〇〇年前の経験がさまざま警告されたにも拘わらずなのです。また当然崩壊しました。

 これはかなりなことを教えてくれます。著者のいうバブルは、いくら馬鹿げて見えていても、また現在に至るまで再発してきたし、今後も繰返し生じるだろうと考えざるをえないのです。
 そして著者はさらに八〇年代以降の日本経済のおけるバブルを見ていきます。このバブルの背景にあった経済政策の問題点を指摘します。そして最後の章ではバブル再発防止のためには何をなすべきなのかを展開しています。
 その中で注目した提案としては「地価インデックス債」があります。

  これは、国が発行する特殊な国債で、額面が地価にスライドし
  て上昇するようなものである。したがって、キャピタルゲインの
  点では、土地と基本的に同一の価値をもつ金融資産である。つま
  り、値上がり待ちで土地を保有する立場から見ると、土地ではな
  くインデックス債を保有しても同じことになる。さて、国はこの
  債権を発行して土地を買い上げる。そして、この流通市場を形成
  し、第一次取得者がこの市場で売却できるようにする。この市場
  でインデックス債を購入すれば、一般投機家が将来の土地購入に
 備えて購買力をヘッジする手段が得られることになる。
                          (「ポスト・バブル経済に向けて」)

 しばし考えてしまいました。もうすこしじっくり考えないといけないのですが、どうしてもこれもうなずけないのです。やっぱり国家に何かをやらせようというのでしょうか。どうしても、こうしてあくまで国家に期待する考え方には、私はどうしても賛成するわけにはいかないのです。
 ともあれ、歴史的なバブル事件を知っただけでも読んで良かったと思った本でした。(1992.11.01)