10110616 私はある家に家庭教師にいっている。そこには可愛い6年生の男の子とそのおかあさんがいる。男の子は私を見るとうれしそうに笑ってくれる。
 私のために彼はピアノをひいてくれる。ああ、よくこんなにピアノがひけるようになったなと私は思っている。そこにはピアノの先生がいる。中年の女性だ。おかあさんが席をはずしたときに、そのピアノの先生と話す。

 ピアノの先生「あの子は小さいときには、ピアノがよくひけなかったんですよ。覚えています?」

 私は、そういえばこの子は小学校はいる前からピアノを習っていて、とくに幼稚園のころはピアノの鍵盤の配列がよく覚えられず、泣いていたのを思い出す。

 「そうだ、なんだかよく泣いていましたね。もうこんなにうまくひけるようになったのに」

 男の子がうれしそうに、私の手をたたきにくる。私も手をあわせる。ピアノの先生がいう。

 ピアノの先生「先生のおかげですわ。覚えていますか。彼がまだ小さいときに、先生がある方法をおしえてくれたんです。でもずいぶん昔の話ですわね」

 私は、ああそうだ、私がある方法を教えて、こんなに嬉しそうにピアノがひける彼になったんだと思い出してくる。そういえば、このピアノの先生とも、彼がそんなに小さいときから、この家で顔を会わせたんだと、たったいま気がつく。考えてみれば、そんな昔からときどき顔会わせるのに、こうして話すのは初めてのことかもしれない。そして彼女の顔に昔のあの頃はもっと若かったのにという表情を読み取る。
 だんだん私はいろいろなことを思い出してくる。そうだ、私はここにもう何
年も家庭教師にきている。この先生ももっと若かった。あの男の子も小さかった。これからまたここへ来たときに、またこの先生と会うこともあるかもしれない。でもまたこれから何年もここへくるのだろうか。
  そんなことを考えていたら、さきほど目が醒めました。(1994.05.12)