書  名 続々会社の寿命 強さの研究
編  者 日経ビジネス
発行所 日本経済新聞社

11061111 日経ビジネスでは「会社の寿命」シリーズということで、さまざまなテーゼを世に問うてきました。明治以来日本産業の歴史をみたとき、「会社の寿命は30年」「本業比率70%、従業員の平均年齢30歳以上は危険の兆候」といえるのではないか、などというテーゼはかなり衝撃的なことであったと思います。当書はその第3弾で、「会社の寿命−ケーススタディ版」といったものです。
 日本を代表する優良企業の強さを解明する内容なのだが、ここでは、西武鉄道、本田技研工業、日本電気、トヨタ自動車、松下電器産業、野村証券、イトーヨーカ堂、住友銀行の8社をあげています。実にそれぞれ興味深いわけですが、今回は西武鉄道グループをあげてみましょう。

 西武鉄道グループというのは、

 西武鉄道、西武バス、西武ハイヤー、近江鉄道、西武運輸、伊豆箱根鉄道、西武建設、西武建材、西武商事、西武造園、西武不動産、プリンスホテル、西武ゴルフ、豊島園、西武ライオンズ、国土計画

ほか約80社、社員総数4万人のグループをいいます。故堤康次郎氏の入手した土地資産のほとんどを受け継ぎ、電鉄、ホテル、レジャー開発、不動産業などを担当しています。同じ異母兄が率いる西武流通グループとは経営、資産管理は全く別個に行われています。
 ちなみに流通グループとは、

 西武百貨店、西友、ファミリーマート、パルコ、西洋環境開発、小笠原開発、インター・コンチネンタルホテルズ、ホテル西洋、クレディセゾン、セゾン生命、新西洋証券、西洋フードシステムズ、吉野家ディー・アンド・シー、朝日航洋、大沢商会、セゾンコーポレーション

ほか約200社、社員総数14万5千人のグループです。
 つまり流通グループは「西武」をつけているのは百貨店だけですね。もはや西武流通グループというより、これはセゾングループともいうべきでしょうね。
 本来は、守備範囲を分けていたのでしょうが、セゾングループは、観光、レジャー、開発、不動産などの分野にも激しく進出しています。これは全く別グループどころか、もはや競合敵同士ですね。
 ゼゾングループのあまりの侵食ぶりに、義明側はなんとあの一番の敵であった東急グループと手を組むといいますから、この堤兄弟の相克はすさまじいですね。

 辻井喬『彷徨の季節の中で』

のところで少しふれていますが、またこの兄弟の宿命的な関係についてはいつか書くことがあるかと思っております。
 この「続々会社の寿命強さの研究」で扱っているのは、西武鉄道グループのほうです。
 さてそれで、このグループの中心は、上場企業である西武鉄道ではなく、国土計画なのです。すべてのグループ会社の大株主は国土計画です。上場企業である西武鉄道は当然業績等は明らかになっています。まずそれを「東京商工リサーチ企業情報」でみてみましょうか。

【商 号】西武鉄道(株)                   東証1部
【所在地】〒359                       【企業番号】29-009630-8
          埼玉県所沢市くすの木台1−11−1
【評 点】80点                         
【電話番号】  0429-26-2035            【FAX番号】
【設 立】明治45年 5月      【創   業】
【資本金】  21,665,000        (千円)【従 業 員】     5,519  人
【代表者】仁杉 巖       (男)【生年月日】大正 4年5月7日生
【役 員】(会)堤義明(専)戸田博之(常)大木英夫,以下略
【営業種目】観光(45%),鉄道(37%),不動産(18%)
【大株主】国土計画,西武建設,三井信託,安田信託,興銀,日本生命,三菱
     銀行,第一勧銀,三菱信託,長銀
【支店・営業所・工場】
          〔路線〕鉄道178.4Km
【取引銀行】日本興業,三菱,第一勧業(池袋),三井信託(池袋),安田信
      託(池袋),三菱信託(池袋)
【業 績】
  決算期    売上(千円) 利益(千円)配当  売上・利益伸長率
  90年 3月  166,248,000  2,508,000 10%
  91年 3月  203,552,000  2,505,000 10%  122%  100%
  92年 3月  213,214,000  2,521,000 10%  105%  101%
【申告所得】
  年月 金額(千円) 91年申告順位(業種:鉄   道     )
 90/ 3    6,167,637             全国    11位/  125社
 91/ 3    5,875,813             県内     1位/    2社
 92/ 3    6,767,216
【収益指標】  4021(業種:地方鉄道業           )
                                  当 社     標準値(92年度)
    売上高増加率                  104.75%             104.66%
    一人当り月売上高(千円)       3,219               1,063
【事業概況】
  西武グループ約100社の中心、鉄道、不動産が収益の柱、鉄道部門は順
  調だが、観光部門の投資負担が重く増収減益。
【更新年月】   4/ 7/27

 これで、よくみて頂きたい、利益と申告所得の違いを。会計上と税務上の利益が随分違うんですね。借入金利の損金参入できない部分の関係だと思います。つまりかなり借金して土地を仕入れているのでしょう。
 さてそれで、さらにこの大株主の国土計画ですが、これは東商でも帝国データバンクでも全く出てきません。これはいったい何なのかな。
 実にこの日経ビジネスの取材陣も、国土計画からなんら正確な数字を掴んではいません。ほとんどが推測ないし、べつなところからの資料なわけです。驚いたことに、国土計画に莫大に融資している銀行は、国土計画から「決算説明らしい説明はうけたことがない」といいます。こんなこと、ほかであるでしょうか。みなさんの関係する会社は全て、決算書がどうだ、決算から6カ月たっていたら最新の試算表が必要だと、銀行からうるさくいわれているはずです。
 これはいったい何なのかといえば、結局それは国土計画のもつ膨大なる土地資産のおかげということでしょう。もはや西武鉄道グループのもつ土地の総合計は、日本の皇族がもつ土地の総合計を上回っているといいます(吉本(吉本隆明)さん談)。堤康次郎は巧妙に、皇族の土地を手に入れてきたという。それをそのまま受け継いでいるのが、鉄道グループであり、堤義明ということです。
 国土計画は売上に比して、極端に経常利益が少ないのです。

  国土計画がいかにユニークな企業か十分わかる。上場企業でこ
  れに似た売上高、利益の組み合せを有する企業は全くといってい
  いほど見当たらない。

 これは何なのか、といえば、営業外費用が多いということで、すなわちそれは借入利息というであるわけです。全資産の大部分が借入金であれば、こうなるのは当り前です。でも普通だったら、これは不良企業になってしまう。しかし国土計画は実にこの全資産といったって、土地は実際の価格ではなく、帳簿上の価格であるから、膨大なる含み資産はもっているが、帳簿上はたいした数字ではありません。したがって、

  ある国税庁関係者は「大正九年、康次郎が国土計画の前身であ
  る箱根土地を設立して以来、この会社は法人税を払ったことがな
  いのではないか」とまでいう。

それどころか、

  所得税額控除の方が大きいため、法人税は払わず済み、反対に
  還付されているのではないか

と推測する公認会計士もいるわけです。(註)

(註)正確にいいますと、もちろん国土計画は法人税を払っている
    わけです。配当ができるのは、税引き後の利益からであり、法
    人税、法人県民税、法人市民税等を支払ってのちに配当してい
    るわけです。ただし、銀行利息から、その法人税等は源泉され
    ていますから、実際の納税期には、むしろ「払いすぎ」という
    ことで還付されているだろうということなのです。

 ではさらのこれはいったい何なのか。日経ビジネスでは、これは相続税対策ではないのかと推測しています。すなわちこうした少ない利益しか出せない国土計画の株式の評価額は僅かであり、これを全て、義明の一族が相続するとしても、たいした税はかからない。しかしその株式の支配する国土計画は、西武鉄道、プリンスホテル等々の大株主なのであるわけです。
 例としてあげてあるのが、ダイエーがいくら「中西商店」といわれるほど中内功が強大でも、もしかれの持株を相続すると、とうてい相続税が払える金額ではないから、中内一族がダイエーを自分のものとできるとはかぎらない。しかし、

  西武は永遠に「堤家の西武」なのである。

しかも義明一族の、ということであろう。
 ちょっとはしょって説明しすぎたかもしれません。もしまた疑問等あれば、またこのこと考えていきたと思います。ただ私の知る限り、このような企業は国土計画だけだと思います。
 そのほかこの本には、他の7社の強い企業が紹介してありますが、何といっても、この西武鉄道グループがこの本で読むべきところです。
 企業は、まさしく「大きいことではなく、強いこと」でしょう。その強い企業の秘密を、ここで見ることができます。しかし、日経ビジネスがまた何年か前から言ってきたのは、これからの企業は、「強い会社から、良い会社へ」ということです。私も強烈にそう思っております。(1992.10.13)