私が「２０１２年１０月３日のポメラ」で、次のように書いていました。
昔ここに載っていた時代小説を・・・、ああ、これはまた別に書きましょう。
これは「内田康夫『地の日天の海』」のことです。このことでは、
2012年04月14日内田康夫『地の日天の海』のことで少しだけ
を書いています。
私は今浅田次郎のこの小説は実に面白く読んでいます。前に『蒼穹の昴』を読んで、私はこの作家に失望した思いがありますが、今の『黒書院の六兵衛』にはものすごく毎日感動しています。
内田康夫さんには、推理小説はけっこう莫大に読んできていましたから、いわば始めての時代小説『地の日天の海』にはものすごく期待し、かつ毎日いわば興奮して読んできていました。
それがどうしてか途中で中途半端なまま終わることに、もう不満ばかりが残りました。なんでなのかなあ。こんなのなら最初から書かなきゃいいのに。
いや、できたら再び完成するまで、家康まで、いや天海のこと（これは私の勝手な希望）まで書いてほしいものです。
自分の頭の中に甦っても、それを文字に書くことはまた別なことですね。
2012/06/27 06:04もうまた「黒書院の六兵衛」が興味深いです。どういうこと
なのだろうと、予想もつかないものです。また「さすが浅田次郎だなあ」と思うしかないのです。これが現代劇ではなく、明治維新の最初に起きていることなのですから。もうただただ浅田次郎に感激するだけです。いやこれで最後まで行ってほしいです。
いや前に、この日経新聞で、内田康夫の連載小説（地の日天の海）ですが、どうしてか途中で終わりになった感じで、驚きました。「やはり内田康夫は時代小説は無理なのかなあ」という思いでした。この小説の内容を思いながら、北柏まで歩くなか、６号線の道路の先を見ていたことを思
い出します。その景色が今も私には甦ります。
しかし、思えばその景色を私の脳ではありありと思い出せても、ここに文字で描くことはできないのですね。そんなものなのですね。
2012/06/27 06:22このポメラでは、ときどき日時を入れています。入れるたびに、「ああもうこの時間だ」と思い、また焦ったり、安心したりするものです。
やたらくしゃみが出てしまいます。
浅田次郎のいくつもの作品を思い出し、また内田康夫も思い出しています。
書 名 地の日天の海（150）2007.01.15
著 者 内田康夫
絵 戸屋勝利
掲載紙 日経新聞夕刊
前回書いてから、ずいぶん時間がたってしまいました。いや毎日の夕刊では実に愉しみにしてこの小説を読んでいます。ただ、こうして書きますのが、その時間を作れなかったというところです。
自分の妻の兄の信長を突如攻めてしまうことになった浅井長政の心情を、この内田さんはよく描いているなあ、ばかり私は考えていたものでした。
多少なりとも物の本質を見る目が備わっていれば、天下の形勢がいずこへ傾いているかは、自ずから分かりそうなものだ。都ぶりに遊惰の気風に毒されている朝倉に対して、進取の気風の織田は朝日の昇る勢いである。足利義昭の呼びかけに応じ、すぐさま上洛の意思を示した信長の潔さを見ても、それは明らかだ。
でも、それでも長政は、朝倉と連合して織田信長を攻撃します。この道を選択することは実に大変な決意でした。信長の妹を妻に迎えたときに、織田のほうを長政は選択したのだと言えるのではないでしょうか。でも、それなのにこの挙になるわけなのです。彼の思いはどんなに苦惱にまみれていたことでしょうか。
「朝倉との盟約」など、ごく私的な小義でしかない。対して、信長を立てることは天下へ向かう大義に通じると信じた。その信念をなぜ押し通さなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。
そのことがあるから、長政は今度ばかりは一歩もひくつもりはない。彼の主戦論に対して、久松や老臣は籠城を主張したが、頑として受け入れなかった。
この通りだったのだろうなと思います。そして私は、実は浅井長政にも、天下を狙うという気持があったのではないかと思っています。今一時的に天下を掌握したと見える信長を倒すことができれば、天下を自分が掌握できるのではないか、ということまで夢想していたのではないかと思うのですね。
もちろん、これは私が勝手に考えるだけで、もう実際に長政の心の中を今から伺うことはできません。ただ、そこまでも考えていなかったら、あの挙はできなかったのではないかと思うのです。
実際に足利室町幕府を無くするような思いまでは至れなかったでしょうが、天下を握って、足利の一番の与力になることくらいは、長政も考えたのではないかと思うのです。
だから、織田との袂別の決意は、決した以上、父の久松や、朝倉義景よりは、実に強固だったろうと思うのです。
そんなことを思わせてくれるこの小説が実に面白いです。これは歴史ではなく、そうしたたくさんのことを思わせてくれる小説です。
書 名 地の日天の海（146）2007.01.10
著 者 内田康夫
絵 戸屋勝利
掲載紙 日経新聞夕刊
前回以下のように書きましたが、
でもここが織田信長にとって最大の危機なわけですが、それを最大の成功のチャンスにできると秀吉は考えています。ただし、それば実際に自分の成功のチャンスでもあるのですが、しかし同時にそれは死がすぐとなり合わせなのです。
この「死がすぐとなり合わせ」の危機を、どうやら秀吉は逃れることができました。
三々五々、山中から出てくる敗残の兵を集めたが。三分の二にも達しない。ほとんどが手傷を負い。具足もまともな者は少なかった。
秀吉はしばしの休息を与えてから、隊伍を整えて京都へ入った。
信長は南禅寺に出迎え、家康と秀吉の労をねぎらった。秀吉はあらためて家康に謝辞を述べた。このときの恩義を、秀吉は生涯忘れることなく、折にふれて側近に語っている。
この内田康夫の書くことで、私はなんだか解けてきた気がします。秀吉はやはりどうしても家康という人間のことは、「律儀者」「あの時は家康がいなかったら今の俺は存在しない」という思いが強かったのではないでしょうか。
のちに、秀吉政権は五大老五奉行の制度を置きますが、秀吉らしいのは、本来は五奉行がもっと機能してくれることだったでしょう。でも大きな政治家が連合して支えてくれないと、秀吉政権は日本を統一維持できません。
五大老のうち、秀吉が一番信頼できたのは、小早川隆景でしょう。でもその隆景は早くに亡くなりまして、次は上杉景勝が継ぎます。景勝は容易ならない人物だったと思います。毛利輝元はもうそれほどの采配できる器量はありません。宇喜田秀家は、ただ真面目で若すぎます。そうなると、隆景なきあと、信頼できる人物は、秀吉には家康しかいなかったのではないかな。しかし本当は信用していいものか、大変に問題です。
本当なら、秀吉が一番信頼できたのは、器量も能力も弟の秀長でした。でも秀長は秀吉より先に亡くなります。
やはり、この浅井朝倉軍との敗戦での殿戦で、秀吉には家康に対する大きな恩義を何度も感じていたことでしょうね。しかし、それをこうして指摘してくれたのは、私にはこの内田康夫さんが始めてです。
越前での敗戦は、信長の哲学を変質させた。信じきっていた浅井長政の裏切りに遭って、少なくとも、人を信じることに関して、極めて狭量になったことは確かだろう。これ以降、狷介といってもいい彼の性格は決定的に形作られた。
その中にあって、家康と秀吉に対する信任はあつかった。とりわけ秀吉の豪気と忠誠心は認識を新たにするに十分なものがあった。小牧山の鷹狩りの野で拾い上げた小僧っ子が、よくぞここまで成長した──と、よき茶道具に恵まれたような気分でもあった。
それとは対照的に、長政への憎悪は言いようのないものだった。
私は信長の実にこの日本の歴史において実に実行力のある革命性を持っている数少ない政治家であり、そこは好きなのですが、どうしてもあの憎悪ばかりを漲らせているとしか思えない彼の性格には実についていけません。でもそれは、この時でできてしまったのだなと思うと、それには頷けてしまいました。
しかし、よく描いているなと思います。ますます内田康夫さんに感心するばかりです。
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書 名 地の日天の海（143）2007.01.05
著 者 内田康夫
絵 戸屋勝利
掲載紙 日経新聞夕刊
やっぱりこうして夕刊のない日が続きますと、とてもこの小説を読むのは待ち遠しいです。
織田軍が朝倉を攻めに行きまして、突如味方であるはずの浅井長政から攻撃を受けるときの事態のことです。今までたくさんの小説他でこのシーンを読んできましたが、この内田康夫の描き方に感心しています。
他ではいつも、この急激な事態が起きたときに、織田軍の中で軍議が開かれ、秀吉が軍の殿を申し出るようになっていましたが、この内田康夫の小説では、信長は秀吉から浅井の裏切り（裏切りと言っちゃうと、浅井長政には悪いかな。浅井から言わせれば、信長が裏切ったということでしょう）を知ると、ただちに撤退します。
信長が前田利家など僅かばかりの側近を従え、馬腹を蹴って行ってしまうと、秀吉はただちに前線各所に伝令を発した。
「総退却！」
諸将は驚いた。すでに御大将自ら逃げたというのである。兵をまとめ、取るものも取りあえず陣を撤収するほかはない。
（殿は誰か？──）
これが最大の関心事であった。
あの場合は、事実はこうだったのでしょうね。浅井の行動はすばやかだったし、織田軍は軍議を開いている余裕はありません。
ただ、秀吉はこの事態を読んでいました。透破（すっぱ）と呼ばれる諜報網を抱えていたことです。
秀吉本人も（あるいは───）と思わないではなかった。
(死ぬかもしれぬ──）
それでもその道を選んだ。一種の賭と考えている。ここで働きを見せれば、織田家中での秀吉評が一変することを思った。主君信長が、自分を重用するのに、なにがしか他の家臣に対して遠慮があるのを、この一戦で払拭できる。
むろん、それなりに成算はある。浅井に透破を放っておいたのもその布石だし、それ以外にも備えは怠りなかった。とはいっても、無事、脱出するのは、ほとんど僥倖に近いことも事実だ。
でもここが織田信長にとって最大の危機なわけですが、それを最大の成功のチャンスにできると秀吉は考えています。ただし、それば実際に自分の成功のチャンスでもあるのですが、しかし同時にそれは死がすぐとなり合わせなのです。
思えば、このときは、秀吉自身渾身の苦心の時であったろうし、また弟の秀長が兄以上に必死になってこの殿軍をささえただろうと私は想像するのです。
書 名 地の日天の海（137）2006.12.22
著 者 内田康夫
絵 戸屋勝利
掲載紙 日経新聞夕刊
この日経新聞の連載に関して、最初は 周の雑読備忘録「内田康夫『地の日天の海』」に書きました。毎日読んで（実は日曜日だけではなく、夕刊のない日も多いので残念です）、「あ、これはいいな」とか「これは面白いな」と感じています。もう私は内田康夫の大ファンになりました。
この夕刊なのですが、次を読んで目を見張りました。ときは、ちょうど信長が比叡山焼き討ちに入る前の話です。
近江も越前も、近畿周辺では最大の穀倉地帯である。比叡山の威勢が盛んなのは、豊かな糧米の供給が背景にあることによる。逆に、南近江にあった寺領を「収奪」してしまった信長を、仏敵と憎悪していることは想像に難くない。
浅井長政には信長の妹、市が嫁して、すでに一男三女をなしている。信長は長政を実の弟にも増して愛し、両家の姻戚関係を過大評価しているふしがあった。しかし、浅井と朝倉、浅井と比叡山の関係は、それよりもはるかに歴史が古い。そのことを秀吉は案じている。
私はこれだけの内容を始めて読みました。信長が仏教関係をかなり敵としたのは、主に一向宗であり、その総本山の石山本願寺を一番の敵としたのであり、旧仏教である天台宗の比叡山などは、ほぼ焼き討ちする理由がなかったのだが、仏教のいわば象徴的な存在としての比叡山を焼き討ちした、というような解説が多かったと思います。
このことは、私は高校生の頃読んだ歴史の読み物には、みなそういうふうに書かれていたかと思います。「比叡山の威勢が盛んなのは、豊かな糧米の供給が背景にあること」というような見解は私は始めてです。思えば、やはり糧米をめぐる経済戦争での、保守・現状維持派と信長革命派とも大戦争であったわけでしょう。
事実として、信長は仏教をすべて一律に見ていたわけではありません。宗教の違う派の宗教論争を公開でさせて（たしか浄土真宗と日蓮宗にやらせて、どうみても信長は真宗のほうに身贔屓だったかと思います。ただし、私の記憶だけだ）、どちらがまともなのかという点を明らかにしようとしています。
キリスト教に関しても、その宗教はどうでも良かったのではないでしょうか。たぶん、仏教が何故かヨーロッパにも伝わって、毛色の違う宗教になったのではないか、というくらいしか思っていなかったと思います。
それよりも、やはり比叡山が持つ、糧米のことだと思います。だから比叡山は信長を憎悪しました。同じに、いやそれ以上に信長は比叡山を憎悪しました。
信長は苛立っている。時機を失すれば、自体は悪化するだろう。現時点で周辺諸侯が鳴りをひそめているのは、信長の力を恐れるからである。尾張から発して、近江を下し、あっという間に、畿内を席捲した猛烈な勢いに畏怖し、沈黙しているにすぎない。
うん、そうだなあ、と思いました。やはり、浅井・朝倉というのは、その旧勢力を保守する側でいるしかなかったのですね。
そして、この日の連載は、「第十章徳川家康」の最初です。徳川家康もまた、自国内で、一向宗に大変に苦しめられたものでした。だが、そうした一向宗に対する姿勢は信長とは違います。いや、まだ家康は、この小説では出てきていないわけで、どういう風に描くかは、内田康夫の見解をこのまま見ていくしかないですね。
そして、その信長の考え、やることを見ている秀吉は、おそらく三河の家康の一向宗との戦い悶着をも見ていたはずです。どのように考えたものなのかな。
また毎日興味深く読んでいきます。
書 名 地の日天の海
著 者 内田康夫
絵 戸屋勝利
掲載紙 日経新聞夕刊
これも日経新聞に連載されている小説です。
私は内田康夫さんはかなりな量を読んできました。いや、西村京太郎や赤川次郎はかなり読んだものでしたが、当初は内田さんは、ほとんど読まなかったものでした。
ただ、私の尊敬する吉本（吉本隆明）さんが、愛読されているというのを知りまして、「こりゃ、すべて読まなくちゃ」という思いになったものです。
ただし、それらはみな推理小説ばかりです。このような時代小説も書かれるのには、もう実に驚きました。そして描いているのが、過去実に多くの作家が書かれてきただろう「太閤記」の世界です。ただし、題名が「太閤記」とも「秀吉」の名前もありませんから、秀吉だけの物語ではないようです。若いときの光秀も描かれていますので、その当時の多くの人物が描かれるのかもしれません。
ひょっとしたら、光秀が天海になるところまで書かれるのかな、なんて気持にもなります（私は明智光秀が天海になったとは思っていません）。
それにしても、この「太閤記」を中心とする、豊臣秀吉、織田信長、徳川家康を中心とする物語は、いったいいくつ書かれてきたものでしょうか。もう「太閤記」といわれる物語も、江戸時代にもくつもあります。私自身もどのくらいの数を読んできたことでしょうか。
そうしたたくさん描かれてきた秀吉や信長、光秀をまた書いていくのは（まだ家康は出てきていません）実に大変なことだろうなと思います。
今はちょうど桶狭間の戦いの直前の時を描いています。今川義元の大軍を前にして、清洲城内にて織田の軍議が開かれています。新参者の藤吉郎が、かなり熱情を込めて言上します。それが実にまとをえていると、読んでいる私たちも納得してしまいます。
「今川方には大きな錯覚があります。それは何かと申しますと、織田方が籠城するであろうと、ハナから決めてかかっているところです。それゆえに長陣を想定して、大高城に兵糧を運び込むことに重きを置くに相違ありませぬ。大高城入りおよび、この方面の付城攻略のために、おそらく一万を越す兵力を充てるでありましょう。さらに、鳴海方面、善照寺、丹下両砦の戦闘にも同様の兵力が割かれます。よって、義元公本陣の軍勢はおよし五千。われらが真一文字に本陣を襲えば、数刻をもって勝敗のゆくえは明らかとなり、義元公の音首級（みしるし）をあげれば、大高の敵も鳴海の敵も、総崩れに潰えます」
これにたいして、信長がいいます。
「ははは、猿めが、その目で見たように、大きなことを言いよるものよの」
だがこのときには、藤吉郎は、配下のものに、この今川軍の進軍をすべて調査させていたと思われます。また信長もそうだったでしょう。
後になって判明したことだが、藤吉郎が予想した今川軍の進路は、ほぼ正鵠を射ていた。義元は東海の王者にふさわしく、正々堂々の軍を進めたのである。
このことは、正確な事前調査が必要なことなのです。それを、秀吉も信長もよく判っていたと思います。さて、このことをこのあとの展開でどう内田康夫さんが描いてくれるのでしょうか。
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