10111217 私がたしか高校2年生のときに、兄の集英社「漢詩大系」で、この「魚玄機」を手にとったことがあります。でも中身を読まないままになっていました。
 その後大学生になると、もう学生運動ばかりで、漢詩に親しめるのは、逮捕起訴され勾留された府中刑務所に行くまでありませんでした。ただ、この魚玄機のことは、森鴎外の小説の思い出もあり、詩を知りたいなという思いばかりで、今になってしまった気がしています。

 魚玄機(843?〜868?)は、晩唐の時代の長安の人で、始め李億の側室となったが、正妻に嫉まれて咸宜観の女道士となりました。
 その後、自分の愛人と使っている侍婢の仲を疑い、嫉妬からこの侍女を殺害します。ために、彼女は斬刑に処せられます。

  江陵愁望寄子安 江陵の愁望 子安に寄する
            魚玄機
 楓葉千枝復萬枝 楓葉千枝 復た万枝
 江湖掩映暮帆遅 江湖に掩映(えんえい)して 暮帆遅し
 憶君心似西江水 憶う君が心は西江の水に似たるを
 日夜東流無歇時 日夜東流 歇(や)む時なし

 幾重にも枝を伸ばした楓の葉が 橋の上までを覆い、
 夕暮れの船も ゆったりと進んでおります。
 あなたのことを思えば、心はまるで西江の水のよう。
 昼も夜も東に流れていって とどまることもありません。

 この詩はひたすら夫の帰りを待つ女心をうたったものです。子安は魚玄機のかつての夫李億の字です。魚玄機は、たいへんにこの李億のことが好きだったのでしょう。というよりも、彼女が殺害されることにもなった愛人のこともまたものすごく好きだったのでしょう。
 いやおそらくは、魚玄機は愛する相手が、自分を裏切るようなことは許せなかったのではないでしょうか。それが最後殺人にまで至ってしまう、彼女のものすごい熱情だったように思います。

 それにしても、すごい愛の詩ですね。漢詩で愛や恋を吟った詩というのは、私はほとんど知りません。この詩をずっと眺めてみて、そして詠んでみて、その愛の気持の強さに驚いているところです。
 また彼女のほかの詩も学んでいきたいななんて思っています。(2005.11.13)