将門Web

周が日々仕事であちこち歩いたり、友人や家族と話した中で感じたことを発信しています。

Tag:帝鑑の間

1211150112111502 さて六兵衛はどこへ行ったのでしょうか。隼人がいいます。

「騒ぎ立ててはなるまいぞ。朝命が達せられたからには、すでに天朝様の御城じゃ。よろしいな、御両人」

 ただこのときの本多左衛門と粟谷清十郎はこの挿絵のように、実に情けない姿です。でももう隼人も同じ姿と言えてしまうのです。

 ・・・。侍の数珠つなぎとは、はたに見せられぬ図である。何やらおのれの人生までもが情けないもののように思えてきた。
 他人事ではあるまい。長き泰平のうちにおのれもまた尚武の気風を忘れて、臆病に生きてきたにちがいなかった。その証拠に、板戸に映るおのが影も同じへっぴり腰ではないか。

 江戸時代が終わったはずです。だから決起したとか12111414いう彰義隊とやらも一日で終わりました。もう武士なんていうのは、随分前に気概も何もなかったのです。でも今も、自分の身分が武士だったことをいう馬鹿な人がいますよ。今平成の世にですよ。本当の大馬鹿です。

1211140112111402 この作品では15代将軍への幕臣たちの気持がそのまま書いてあります。何か緊急事態が起きたらしいのです。

 ・・・。寛永寺にてひたすら恭順するくらいなら、潔く腹を切っていただきたい、という声も耳にしていた。いや、実は多くの旧幕臣たちの本音はそれであろう。

 これは実に分かります。慶喜はいわば尊王攘夷派だったのですから、それで鳥羽伏見だったのですから、それで幕臣たちの気持はよく分かります。でもそうではありません。的矢六兵衛のことなのです。12111310

「帝鑑の間に、的矢六兵衛がおりませぬ」

 えっ、一体どうしたのでしょうか。それはまた明日になるのです。
 すごいいい小説だなあ。

1211130112111302 この新的矢六兵衛は何を考えているのでしょうか。

 六兵衛は答えなかった。広敷の隅に堂々と座っていて、遠く西郷の膝のあたりをじっと見つめ続けるばかりである。

 しかし、皮肉なことに次のように思えるのです。

 ・・・。たしかに勅使一行を迎えた旧幕臣たちは、みな尻尾を巻いて這いつくばっていた。武士としての正しい所作を弁えているのは、皮肉なことに六兵衛だけなのかもしれぬ。12111205

 この頃の西郷さんはこの小説で描かれているようだったのかなあ。西南戦争では何故か違ってきたような思いがします。
 でもこのときは、官軍の総大将なのです。

1211110112111102  帝鑑の間に西郷さんが行くのです。そこには当然新的矢六兵衛がそのまま座っているのです。福地源次郎もなんとか早く西郷さんがこの場を去ることばかり考えています。でもやはり西郷さんの目は六兵衛に据えられます。

「オマンサー、ダイヤッドガ」

 でも当然(当然と私も言ってしまいます)、六兵衛は無言です。12111006

 たしかに大器量だと隼人は思うた。相手がわけありと察すれば腹を立てずに忖度しようとする。たいそうな侍ぶりはひとかどの御旗本でござろう。拙者は薩摩の西郷と申す、お名乗り下されよ、と。

 やっぱり六兵衛には答えてほしいです。そして少しは自分の今の存在のわけを語ってほしいのです。

1211010112110102 熟々慮(つらつらおもんばか)ったあげく、加倉井隼人はついに決心した。
 西郷の真意に思い至ったのである。・・・・・・。

 この隼人の決心は、官軍側すべてだったろろうし、旧幕府側もそうだったのでしょう。そうなると彰義隊なんて何だったのかな。わからずやだったとしか思えません(いやもちろん、私には違う思いもあります)。
 でも今も帝鑑の間に座り続ける新的矢六兵衛の思いは何なのでしょうか。
12103107 この隼人は官軍とは言っても、尾張藩の男なのです。この隼人の今の心情がつづられていきます。
 もう天皇が入城されるのも、迫っているのです。でも六兵衛はそのまま座り続けなのです。

1210290512102906 以下から始まります。

 三人は帝鑑の間に上がった。

  秋山伊左衛門が立ち、そのすぐ後には加倉井隼人、福地源一郎が座っているのです。そしてその前には新的矢六兵衛がこの挿絵のように控えています。

 ・・・隼人の目には、四十畳の青畳がやおらささくれ立って、藁筵(わらむしろ)のごとく荒れていくように映り始めた。

 無理もないなあと思います。なにしろ加倉井隼人には、これがこの「上意」が本来なら上意とはいえないものであることは充分に分かっているのです。
 また明日が実に待ち遠しいです。
12102814 これは実にいい、感動する小説です。「こんなこと、あのときにあるわけないじゃないか」というのはたやすいことです。でもあのときには、こうしたことが現実にあったと思わせてくれる小説なのです。

1210280612102807「上意である。控えおろう」
 秋山伊左衛門の渋い声音が響いた。

 うん、私も「伊左衛門、決まっているな」と思いました。声をかけたいくらいです。

 しかし、六兵衛にうろたえる様子はなかった。いかにも来るべきものが来たともいうふうに、帝鑑の間の隅から身を屈めて走り寄り、上意を承るために平伏した。12102714

 なるほどな、まったくの新的矢六兵衛というより、いわば偽ともいえる、いや結局はこれが的矢六兵衛と言えるのかもしれませんが、それがこうした「真っ赤な偽物」というものに平伏して、ここを引き下がるのでしょう。「上意」にかなうわけはないのです。12102801
 しかし、これで新的矢六兵衛も落ち着くのではないでしょうか。これまではどう決着をつけようか困る躊躇する思いもあったと思います。
 やはり、これはすごい小説です。これだけのものはちょっとほかにはないのではと思いました。

1210080812100809 今日もまた秋山伊左衛門の話が続きます。

 わしがあの侍に初めて出会うたのは、昨年正月の御番始の儀の折であった。

 このときに、新しい的矢六兵衛は儀式に少し遅れてきます。

 ・・・、無礼にもほどがあるが、今にして思えば初登城が正月祝儀とあって右も左もようわからなかったのであろう。

 なろほどなあと、納得します。でもこれで通ってしまうのが幕府の江戸城なのですね。いささか驚いてしまいます。こんなことなんだ。

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