10123110 NHKラジオの長寿番組「日曜名作座」で人気の声優、加藤道子(かとう・みちこ)さんが31日、すいぞうがんのため東京都内の病院で死去。84歳。葬儀の日取りは未定。 1941年NHKの東京放送劇団養成所に入り、女性声優の草分けとして活躍した。森繁久弥さんと2人で出演するラジオドラマ「日曜名作座」は、57年から続く人気番組。1日も石森史郎原作の「東洲斎写楽」の放送が予定されている。第1回紅白歌合戦の司会も務めた。(毎日新聞2月1日)

 毎日新聞の訃報欄で、加藤道子さんが亡くなったことを知りました。私は新聞を手にしたまま声をあげましたが、妻は彼女のことを何も知りません。なんだか、何もいえないまま、ただただ彼女の声を思いだしていました。
 私が1969年1月19日に東大安田講堂で逮捕され、東京東調布署に収監され、起訴されたあと、たしか2月の20日頃、府中刑務所に移管になりました。府中刑務所の中の拘置所にい入れられたわけですが、ここでは、府中刑務所の中と同じに管理されていきます。留置場と違うと感じたのは、収容されたのが、独房であること、メシが驚くほど美味いことなどたくさんありますが、一番驚いたのは、房に入ってすぐにラジオの音を聞いたことでした。私がこの府中刑務所で、最初に聞いたラジオの音が、いしだあゆみ「ブルーライトヨコハマ」でした。
 このラジオで聞かせるのは、スポーツは相撲と野球(もう巨人戦ばかり)、音楽番組、そして府中刑務所内の出来事の放送です。その中で、日曜日夜には、たしか午後8時半から30分NHKの「日曜名作座」を聞かせてくれていました。午後9時に消灯となり(消灯といいましても、独房の小さな電灯はずっとついています)、もう眠らないとなりません。とくに冬は、午後8時には蒲団の中に入らなければなりません。8時からは1時間ラジオ放送を聞くだけです。 この「日曜名作座」で朗読(というより声優さんでしたね)をしてくれていたのが、森繁久彌さんと、この加藤道子さんでした。二人は登場人物が何人いようと、二人だけで声を変えてその人物を演じていました。
 たとえば、このことは「宮本武蔵」を例にしていうとすると、おばばと朱美とお通の声をすべて加藤道子さん一人で演じきるということを想像すると判るかと思います。これはすごいことですよ。
 独房の中、蒲団に強制的に寝させられて聞く、この物語は、ものすごく独特なものがありました。とくに、日曜日は、面会接見もないし、運動の時間もないし、風呂(風呂は5日に1回)もないので、朝からまる1日中ずっと独房の中です。そして日曜日は何もかもが早く処理されてしまい。朝食は午前6時半頃で、いつもと同じなのですが、昼食が午前10時半頃、夕食が午後3時頃で(世話焼きの懲役の人たちが、とにかく早く早く仕事を済ませたいのだと想像します)、それから眠るまでの時間が長いのです。
 その日曜日の最後に、この「日曜名作座」があったのです。
 ちょうど、三上治さんも、この「日曜名作座」をよく覚えていたようです。

  ある女優のこと(このサイトは、今はなくて、もう見ることができません)

 たぶん、5週間くらいで、一つの物語をやっていました。私が入ってすぐの3月では、福永武彦「風のかたみ」をやっていました。私はこの福永武彦には、特別の思いがあり、感動感激して聞いていました。あとよく覚えているのは、たしか5月くらいにやっていました、陳舜臣「青玉獅子香炉」です。内容にも感動でしたが、やはり森繁さんと加藤さんの声の交換の運びが良かったものです。実に今になっても、お二人の声をありありと思いだしてしまうのです。
 こうして加藤道子さんが亡くなりましたことを知り、あらためて彼女に、あのときの放送を感謝致しまして、そして彼女の冥福を祈ります。(2004.02.16)