将門Web

周が日々仕事であちこち歩いたり、友人や家族と話した中で感じたことを発信しています。

Tag:彫師伊之助捕物覚え

12103024 これはかなりな推理小説ともいえるように思います。私はちょうど先ほど書いた2作とこの作品の間に、パトリシア・コーンウェル『検屍官』を読んでいたので、またこの話の事件の展開、犯人の追及などの展開にかなり興味をもてました。

 伊之助のところでちょっとしてことから面倒をみている白髪の老人が突如殺されてしまいます。さてそれでまた八丁堀の同心から頼まれてしまいます。こうして伊之助が事件の解明をしていっても、手間賃がでるわけではないのです。でもやっぱり伊之助は次第にこの事件に関わっていきます。これには25年前に起きた未解決の押し込み強盗事件にさかのぼらなければなりません。そのときの被害者にあたっていきます。
 この伊之助はまたかなり腕っぷしもたつのです。前の事件のときにも、伊之助のこの腕で活躍する姿が表れてきます。その意味ではまた、これはハードボイルド小説でもあるのです。
 またこれに続く伊之助の活躍する物語を書いてほしいなと思います(もう無理なことですが)。そこではもう伊之助はおまさと一緒になっているでしょうか。まだ彫師の親方にさぼるので(どうしても事件解決に動くので、本業の仕事がおろそかになる。職場の人たちは彼のそうした姿のことは何も知らない)、怒られてばかりいるのでしょうか。12103025

 でもやはりどうなろうと、伊之助の住む裏店の長屋は変わらないし、そこの住む人の姿も変わらないように思います。それがおそらくそのまま、江戸時代がおわり、明治大正昭和となってもそのまま、おそらくはついこのあいだまでそのままで存在していたように私は思ってしまうのです。

12103023 伊之助が腕のいい岡っ引きだったことは、八丁堀の同心ならよく覚えています。それでどうしても、彼に事件をみてほしいという依頼がきます。伊之助は職場では前歴を隠していますから困ってしまいます。また死んだ女房とのことで岡っ引きという仕事は嫌で堪らないのです。でもまた伊之助は探偵の仕事はやはり好きなのです。したがってやはり深みにはまっていきます。また八丁堀の同心も現役の岡っ引きたちも、そんな伊之助に頼っていくのです。

 ある朝あがった不審な水死体の身元を探ってほしいとの依頼があります。現役の岡っ引きたちでは、伊之助のようにきめ細かく執拗な探索はできないのです。しかし調べていけばいくほどますます謎が浮んできます。

 これも見事伊之助がこの謎を解き明かします。

12103021 伊之助は独りで下町の裏店に住んでいます。ときどき仕事帰りによるめしやのおまさというおさななじみと顔を合わせるのが、なんだかひとときのやすらぎのようにも思えます。でも伊之助はおまさと深い関係になるのは恐れています。死んだ女房とのことがあるからです。
 その伊之助のところに、昔の岡っ引きの仲間の弥八が頼み事にやってきます。家出したおようという娘を捜してほしいというのです。おようはあるやくざものと逃げてしまいましたが、ある日一本の簪とともに手紙がとどけられます。それにはひとこと「おとっつぁん たすけて」と書かれています。弥八はもう年をとっており、なんとか伊之助を頼りにしてきたわけです。伊之助は断るわけにはいきません。彫師の仕事の合間に弥八の娘を捜すことになります。

 裏店にひっそり住んでいる伊之助、その伊之助に惚れているおまさの姿などの描写は藤沢周平らしい筆の運びでその光景が目に浮んでくるようです。思えば江戸時代というのはそんなに遠い世界ではなく、ついこのあいだまですぐそこに存在していたように思えてきます。私たちがついこの間まで生活していた空間だって、こんな形がよくあったように思います。私なんかが住んでいたアパートの生活もこんな伊之助たちが住んでいた裏店の長屋の雰囲気がありました。もちろん私たちには、電気も水道もガスもあったわけですが、わずかの米を炊いで、魚を焼き、味噌汁をあたため、飯をかきこんでいる伊之助の姿などは私たちのアパート生活とまったく同じです。
 私はいまでも谷中千駄木根津の街なみが好きなのですが、ときどき飲みにいっていくつも細い路をわざと入り込んで歩いたりします。細い路地に植木がたくさんおいてあったり、三味線の音が聞こえたり、としよりが手拭片手に銭湯へ向12103022ったりしています。いまにも伊之助のような職人がひょいと姿を現しても不思儀ないようにも思ってしまうのです。ただ、たったいまは急速にその街なみが変化しつつありますが、とにかくもっと今のうちにあのような街をよく歩いておきたいと考えています。
 伊之助はかなり大変な苦労をしておようの消えたわけを探っていきます。やはりこれは伊之助でなければさぐりだせないようです。

書 名 藤沢周平全集第十一巻『彫師伊之助捕物覚え』
著 者 藤沢周平
発行所 文芸春秋社

 藤沢周平の捕物小説です。以下の3篇が収録されています。

消えた女(彫師伊之助捕物覚え)(「赤旗日曜版」昭和53年1月〜10月)
漆黒の霧の中で( 〃 )(「小説新潮スペシャル」昭和56年冬号〜昭和57年秋号)ささやく河(〃)(東京新聞」ほか5紙、昭和59年8月1日〜昭和60年3月30日)

12103019 この3篇とも捕物帳としては珍しいほどの長編です。そして岡本綺堂「半七捕物帳」や野村胡堂「銭形平次捕物控」の主人公と違って、主人公伊之助は十手をもつ同心でも岡っ引きでもありません。毎日版木を彫る通い職人です。むかし十手をあずかっていたということがありました。しかしそのときの女房おすみが男をつくって逃げ、その男と一緒に心中してしまいました。おすみは岡っ引きという仕事を心から恐れ嫌っていたのです。そのことで伊之助は岡っ引きを辞めました。そしてそのことが今も伊之助の心には大きな傷あとを残しています。
 この伊之助は岡っ引きとしてはかなり優秀だったの12103020です。だから昔の同心から、どうしてもいろいろ手伝ってほしいという依頼がはいります。彼はなんとかことわりたいのですが、どうしてか結局はそれぞれの事件に深く関わってしまいます。

 以下3つの作品を書いて行きます。これは1991年の1月に読んでいたものです。

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