11010606書 名 夏への扉
著 者 ロバート・A・ハインライン
訳 者 福島正美
発行所 ハヤカワ文庫

 これは1957年の作品といいいますから、もうSFでは古典といえるのかもしれません。この夏の扉とは、主人公の飼っている猫のピートが寒い冬になると、たくさんあるドアのうちにどれか一つが夏に通じていると信じているように見えるところからきています。同時に、この物語のなかの空間と時間が、なにか一つのドアで行き来できるということなのかもしれません。
 主人公ダニイは天才ともいえる技術者で、いくつかの家事処理ロボットを開発して、友人と恋人と小さな会社を経営しています。彼はとにかく研究が好きで、会社のことはすべて二人に任せています。ところが、この恋人は彼を裏切り、友人と一緒になって、会社の総てを彼から取り上げます。時は1970年のことです。絶望した彼は、酒に溺れ、そして冷凍睡眠保険に加入し、30年後の2000年に目覚め、年老いたかつての恋人や友人の前に若々しい姿で現れ、それで復讐しようと酔った頭で考え、契約してしまいます。
 ところが、その前にとにかく友人になにかを言いたくなり、彼の家へ乗り込みます。そこには元の恋人もいて、あらそいの結果、元恋人に薬を打たれ、彼らの思うままにされてしまいます。彼らは偽造により、別の保険会社でダニイを未来へ送ってしまいます。猫のピートも殺されかけますが、必死に闘い、どうしてか破れていた窓である扉から、外へ逃げ出します。しかし、ダニイは絶対絶命です。もうピートとも永遠に会えないのでしょう。だが、このピートを誰かが連れさっているようです。ピートもまたある扉をくぐるのかもしれません。
 ダニイは2000年に来てしまいます。だが、悪い二人にはなにか悪いことが起きたようです。ダニイは必死に過去の自分の技術を調べていきますが、明らかに自分より優秀な技術者の発明の存在を見つけます。そしてそれは、自分と同じ名前の人間なのです。どうしてもこのことが理解できないので、彼はこの真相が知りたくなります。「タイムマシンでもあればいいのだが」。
 さてそれからさらにダニイは、この過去への扉をさがしにまた進んでいきます。さて、真相は? ピートには会えるのでしょうか?
 これは完璧なほど読むものを引き付けてくれます。またかなりの人間の暖かい愛も感じることができます。そして猫好きの人こそ、この作品に魅せられるのではないでしょうか。最初の扉に、

  ……世のすべての猫好きにこの本を捧げる

とあります。すべてにわたって愉しいSF作品です。
 人生の中での失敗や挫折は誰にでも訪れるのだと思います。ダニイも最初は酒に逃れてしまいます。私たちの世界なら、またなんとか現実を変えようと立ち向かっていこうとするわけですが、これはSFの世界です。30年後の世界に来てしまったら、もうどうにも出来ないのかもしれません。でもダニイはそうした運命に雄々しく向っていきます。人間がそうした決意と必死の努力をするときに、時間も空間も何らかの扉を開けてくれるのかもしれません。ダニイもピートもその扉を通ることができたのです。(1998.11.01)