10122306書 名 あゆみの明日もの語り うたごえ天国
著 者 白 六郎
発行所 あけび書房
定 価 700円

 短大を卒業したばかりのあゆみという女の子が、ある出版社に入るところから物語は始まります。
 みたところ社員数80人から150人くらいの会社でしょうか。また本社のビルは8階建くらいで、場所は本郷か神保町、水道橋、お茶の水というところでしょうか。私はこうして勝手に推測してしまいます。
 私はこうした規模の会社にいたことは2回あります。実際にはもう少し社員数は両方とも多かったかもしれません。とくに私が27歳から28歳のころ務めていた会社に、このあゆみの入った夢民出版は似ているように思いました。なんだか、漫画を読みながら、その会社にいたときのことをさまざまに思い出してしまいました。

 最初の出社の日、あゆみは前の日の酒のみすぎのまま家を出ます。私も最初の出社のとき同じでした。私の場合はさらに当日夕方私の歓迎会までありましたが。
 あゆみは入社式の社長の挨拶の中で「質問があります」と手をあげてしまいます。「うん、俺も同じことやったな」なんて思いました。私の場合は40分も社長が大演説をしたあと、すぐに「理事長(そこの会社は社長とは言わなかった)、ここで今質問があります」と手を上げ立ち上がっていました。私の場合は、あゆみのようにまともな質問ではなかったのですが、会社としては前代未聞のことでとまどったようです。
 でもその前に会社へ入ると、すぐにビラをくれる山城君という第1組合の書記長に

 でもやっぱし  そういうカツコってダサイと思うな~  あたし

といってしまうあゆみはいいですね。私がこの漫画で唯一不満なのは、この組合の山城君がハチマキにゼッケンをしていることです。私はこれだけは嫌ですね。私も入った会社で労働組合を作ったわけですが、こうしたカッコだけは絶対に反対しました。
 それでその山城君のことを、「でもちょっとかわいかったな……」と思ってしまうあゆみも好きですね。女性が男性をこうした視線で見るのは、きわめて素敵です。
 それとあゆみがその第1組合の部屋に行って、部屋を開けると煙草のけむりでいっぱいというのも、よく私には経験したことがあります。左翼学生運動にしろ、労働運動にしろ、よく狭いところで大勢で煙草が吸えるものです。私は左翼が煙草の吸殻を平気でどこへでも捨てるのが許し難かったものです。私は煙草だけは永遠に口にすることはないでしょう。
 そのあと、会社前で4時間のストライキの中、アジをしている山城君の姿がありますが、これも同じ風景を私は思い出しました。私たちは最初48時間ストライキを決行しましたが、やることがあんまりないので、会社前の街頭で集会を開きました。私は司会進行、兼アジテーション係、ついでにシュプレヒコール指導係、革命歌の先導といろいろやっていました。けっこう社員のみならず、通行人、近所のお店の人たち、神田警察にも受けていたように思っています(警察はいいすぎです。ただすぐに神田警察は当然警戒にきました)。とにかく愉しかった。面白かった。
 この夢民社でのあゆみの仕事もまったく私のときと同じ環境なように思います。毎日毎日残業ばかりで、しかもその手当はつきませんでした。そして休日出勤だらけで、その手当が600円でした。だから私たちは組合を始めたわけなのですが。
 職場の上司の主任の女性が子どもを保育園に迎えに行けなくなり、替わりにあゆみがいくことを申しでるのですが、そのときのあゆみが他の同僚にいう言葉がいいのです。

  これは主任だけの問題じゃないでしょ  女の職場で女どうし助け合わ
 なくってどうするんですか!

 実に職場で、女性の敵に女性がなるのをいくつか見てきました。私が一番嫌悪したことでした。それと、自分の子どもを保育園に迎えにいくのは母親だけの問題ではないんです。私はこの主任の亭主を問題にしたい気になってきます。
 しかし、

  共働きなのに家事一切手伝わない男ザラだし  育児も地域教育もパー
 トナーにまかせっきりの男多いネ

という文では、今またあわてました。あせって、いま食器の洗いかたずけやりました。私は食事のあとかたずけ、洗濯、ゴミ資源かたずけとよくやっている気になっているのですが、ときどきさぼります(ゴミ資源かたずけは私しかやらないけど、これは妻と子どもの方も反省してほしいな)。やっぱりやっぱりよくないですね。
 山城君が出社すると、彼の机がないということがあります。これは実際にこういう目にあった友人がいます。彼も有名な出版社の少数組合なのですが、朝こうした事態にあったことがあると言っていました。厳重に抗議して元に戻させたようですが。まったく腹のたつことです。
 会社側の策謀で山城君が暴走族に襲われるところは(これは内容を読むと判りますが、会社の社長専務が指示したものではない)、私はこうした目にはあいませんでしたが、私の友人では現実にいます。これまた誰もが知っている有名な出版社でしたが、その中で頑張っていた私の友人のKは実際に歩いていたところを、バイクではねられました。真相はわからないし、そのバイクの相手も捕まりませんでしたが、おかげで彼には今も後遺症が残っています。それにこうしたときには、はっきりいって警察はあてにならないのですね。Kはどうみても正当であり、合法なことやっていたのに、警察の介入により逮捕され、起訴され、東京拘置所に拘留されました。私も彼も、この年になって(たしか彼も私も39歳くらいのときだった)、拘置所の接見室ごしに語りあうとは思いませんでした。それが私と彼の13年ぶりの出会いだったのですから。
 山城君の昔からの彼女が、この山城君の怪我入院の中で、彼から去っていくところは、なんだかどうにも彼女を責める気にもなれません。私もちょうど会社で組合を作って闘争を激しくやりだしたころ、長く付き合っていた彼女に去られてしまいました。大変に悲しく辛いことでしたが、とにかく私は組合の闘争だけはそのまままっすぐに進んでいきました。私のその彼女も、けっこう大きな会社で組合をやっていたのですが、私のように全く組合のない会社、あれよあれよという間に組合作りから無期限ストライキまで組織してしまったのには、彼女なりに「この人は永遠に仕方のない人だ」と判断されたように思ったものです。

 でも山城君はこのあゆみさんがいて良かったわけですね。私も同じようなものでしたが。
 ただ、この漫画の解決の仕方はどうなのでしょうか。他からの情報で、会社の譲歩を獲ち取るというのは、不満なだとは思いません。山城君とあゆみが幸せそうで、いいのですが、やっぱり組合の団結の力のみで勝利していく姿のほうも見たいような気になりました。
 それにしても、このまゆみはたいへんに好きになれます。酒好きで、単ゲバでいいですね。こんな人は女性であれ、男性であれ、私は大好きになってしまいます。
 とにかく私の勝手な思い込みでした。だからこれは「書評」というよりは、私の思い出の断片です。(1995.06.04)

 その思い出をさらに思い浮かべます。
 私が昔いた会社でのいろいろなことを思い出したものです。懐かしい思い出です。そういえば女性の多い職場でした。それも似てますね。

 そうですね。私のいた会社での労働運動が、山城君たちの組合と違うのは、ハチマキやゼッケンを絶対拒否したこともありますが、けっして出版労連とは連携しなかったことです。出版労連の方は専従が来て、なんか指導したかったようですが、私なんか、その連中に会いもしませんでした。
 それに闘争の形態として、ビル全体の内側も外側もすべてビラステッカーだらけにしてしまったことかな。あゆみたちが山城君を守るのに、会社の屋上で「夕涼み会」をやるところがありますが、私たちは組合を結成して第1回の闘争に全面勝利したあと、みんなで突如伊豆湯が島温泉へ行ってしまったことがあります。これは会社はまったく訳の判らないことで、しかもかなりな脅威だったようでした。
 なんせ会社の組合員やパートだけじゃなく、出入りの業者(印刷屋や広告代理店)、近くのレストランや食堂の店員、すぐそばの神田錦町郵便局の職員数人、それにどこの病院だかわからないけど看護婦さんたち(思い出せば松竹の女医の歯医者さんもいたな、なんでかな)数人、誰かの住んでいる近所の元気なおばさんたち等々と大勢そのまま連れていってしまったのです。私の埼大関係の友人も5人来てくれました。
 しかも私は驚いたのは、組合員たちはこの温泉に来る前に、次週の何日からの第2波の無期限ストライキを決めてきていたのです(私はもっと早く温泉に行って飲んでいたから知らなかった)。実に愉しいことでした。
 そんな私の思い出をありありと目の前に再現してくれた漫画なのです。(1995.06.06)