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 陶淵明の「飲酒」の八番目の詩です。

   飮酒 其八  陶淵明
  愍昇濺豈 青松(註1) 東園に在り、
  衆草沒其姿 衆草(註2) 其の姿を没す。
  凝霜殄異類 凝霜(註3) 異類を殄(ほろぼ)さば、
  卓然見高枝 卓然(註4)として 高枝を見(あら)はす。
  連林人不覺 林に連(つら)なりては 人覚(さと)らず、
  獨樹衆乃奇 独樹 衆乃(すなわ)ち奇とす。
  提壺撫寒柯 壷を提(かか)げて 寒柯(註5)を撫で、
  遠望時復爲 遠望 時に復為す。
  吾生夢幻間 吾が生は 夢幻の間、
  何事紲塵羈 何事ぞ 塵羈(註6)に紲(つな)がる

  (註1)青松 冬の霜などの厳しい状況にも耐えている青い松。作者の生き様を表している。
  (註2)衆草 多くの草、雑草。陶淵明の周囲の凡愚のこと。
  (註3)凝霜(ぎょうそう) 降りて凝り固まった霜。
  (註4)卓然 ひとり抜きん出ているさま。ひときわ優れているさま
  (註5)寒柯(かんか) 葉が落ちた寒々しい木の枝。
  (註6)塵羈(じんき) 「塵」は世俗の。「羈」はたづな。きずな。つなぎとめる綱。

  青松が東の畑に生えているが、
  普段は雑草に覆われて目立たない。
  霜が降りて草が枯れ果てると、
  高くそびえかつ堂々たる姿を現す。
  林に取り囲まれていては人々は気づかないものだが、
  樹が一本になって珍しいものだと気がつく。
  酒徳利を提げて松の枝を撫で、
  時に遠くから眺めたりする。
  私の人生は夢のようなものだが、
  どうして世間の枠にとらわれるのだ。

 この詩を読みまして、陶淵明の誇りある孤高を思います。役人であったときよりも、今の自分は、こうして独りでも、ちゃんとここに立っているという気持なのでしょう。そしていつもすぐそばには、酒を入れた徳利があるのです。私もまた毎日独りで、ただただ飲んでいるところです。

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