もう「私が酔って話す馬鹿話」ということで、掲示板に書いていたことですが、ここでまた書いておきたと思いました。実はこの話を踏まえて、また別に書きたい話がいくつかあるからです。まずは、この話を書いておかないとなりません。
私が酔ってはいるが、真面目な口調で喋る話です。その雰囲気で書きましょう。
結局サ、若いときに、たとえば、２０代のときに、その若者の先生がその若い弟子を誉めると、ロクなことにしかならないんだよ。何、例をあげろだって、それはネ、たとえば高橋和巳だよ。彼の馬鹿先生の吉川幸次郎がね、若い和巳をやたら誉めたんだね。それでね、和巳はなんだか駄目になっちゃうんだよね。 結局それで３９歳で死ぬことになっちまったんだよ。俺はサ、「悲の器」の主人公正木典善は、実は吉川幸次郎のことだと思っているんだよ…………、何この話が判らない、そうだよな、吉川幸次郎がどんな嫌な奴かなんて、知らないだろうね。
ではネ、もう一つの例をあげるよ。あのね、芥川龍之介がなんで、あんなつまらない小説ばかりで、結局死んでしまったかというとネ、………何、「つまらない小説というのが判らない」って、そうか、たとえばね、「杜子春」なら詳しく知っているよね。あの小説では、最後、お父さんとお母さんが牛になったところで、杜子春は仙人になるのをあきらめるだろう。でも、もともとのあの話の原典の「聊斎志異」では違うんだよ。………、なんで龍之介は、こんな道徳的な話にしちゃったのかね。結局ね、彼には限界があったんだよ。
それは龍之介の先生である漱石がいけないんだよ。芥川は、本来はどちらかといえば、漱石ではなく鴎外系といってもいい作家なんだよ。だけどネ、漱石がだね、病床の漱石のところへ、龍之介が行ったときにネ、漱石は皆にいうんだよ。「これからの文学は、それはもう、ここにいる久米正雄君とか芥川龍之介君がやっていきますよ。とくに、この芥川君は素晴らしい資質を持っています」。
……なんてことをいうわけだ。隣の久米だって面白くないだろうけれど、そのまた後ろにいる菊地寛なんかもっと面白くないよネ。でも本当に一番の迷惑は芥川だよ。彼は勘違いしちゃって、結局面白くもない小説を短編ばかり書いて、それで早死にすることになったんだヨ。
若いときの若い人を、その先生にあたる人は、やたら誉めちゃいけなんだよ。………。
この話は、相手によっては、さらに和巳の小説の中身を詳しく話したり、高橋和子の「高橋和巳の思い出」の内容を話したり、吉川幸次郎の漢詩の訳のことを話したりします。思えば、埴谷雄高も、高橋和巳の先生と言える人でしたね。私は吉川幸次郎と埴谷雄高の二人の先生が、弟子の高橋和巳を死なせてしまったように思っています。
そして芥川龍之介については、「やはり、漱石が誉めすぎたのはいけないよな、だからあんなにつまんない小説ばかりになってしまったじゃないか」という思いで、私は長年いました。
でも、ついこのごろ、私はどうも芥川に対する私のこの過小評価は、どうも違うんじゃないかと思えてきました。
そんなことを今後また書いてみたいと思っているのです。（2004.01.05）
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