１月１６日の日経新聞の夕刊の８面で、志賀直哉『城の崎にて』がありました。それでこの作品のことも書いてみようと思ったのですが、よくよく考えると、「いやもう『暗夜行路』への思いを書こう」という気持になりました。もうやはり志賀直哉を思うと、この作品でこそ喋るしかありません。私は志賀直哉はどうしても好きになれませんが、この作品（も今思いましたが、好きにはなれません。でもでもやはりすごい作品です）は、読んでいたことは実に良かったなあ、とつくづく感じるものです。
私は中学２年のときと３年のときに、２度すべてを読みました。高校に入ったときに、この作品を読んだという同級生に、「だから、あの最初に出てくる親父が、自分の母と不倫をするという話だよ」なんていう解説をしました。彼は読んでいて、まったく理解できなかったようで、驚いていたものでした。私はそんな記憶が明確に甦ります。いえ、そのときの会話内容、話した場所、彼の顔も思い出しました。
彼、時任謙作が大山に登るあたりで、なんだか実にすべてを許す気持になっていくのが、自然に判るような感じがしていくものですが、思えば、あんな小説を少年や青年が読んでも仕方ないようにも思えますね。思えば、日本の文学は暗いなという思いと、でも日本だけでなく、文学なんてみな暗いのかなあ、という思いになります。
この小説ももはや２度と読むことはないでしょう。でも志賀直哉の小説では、私にはこの作品は何度も思い出されてくる小説です。(2010.01.22)
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