ぼくは幻想ということばを使うけれども、どういうことばを使ってもいいですよ。観念の産物と言ってもいいし、それがありますね。観念の想像物というものをまた三つに分けますと、それは共同性としての幻想ですね。共同性としての幻想というのは、たとえば国家であり、政治であり、ある場合には共同宗教であり、法律もそうですね。そういうものが共同的な幻想。もう一つは対なる幻想ですね。それは一対の男女の関係を基盤として生み出されるものでうね。現実には家族の問題、あるいは親族体系の問題、そういうものが一つ。それからもう一つ、人間の生み出す観念の産物、そういうものは芸術というもの、絵画とか、彫刻とか、文学とか、音楽とか、個人幻想ですね。個人の生み出すもの。そういう三つに分けられる。
（「思想の発生する根本的基盤」伊藤勝彦との対談 1967.11「対話・思想の発生」1987.12.20「吉本隆明全対談集第一巻」に収録）
この対談の相手は悲しくなさけないくらいに、判っていないのだ。よくまあこんなに丁寧に説明してくれているものだと思うのだ。だがこの「幻想」という言葉をまったく誤解して使ってしまっている人の多いことにときどき呆れ返ってしまうことがある。
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