イエスのそばには、いつも「夥多しき群衆」がいますが、これは何なのかなあ。『信仰なきは何ぞ』といわれましても、私なんかそもそもあらゆる信仰なんかないものなあ。かろうじて日本の神だけには信仰心があると思っていますが。
第４章
イエスまた海邊にて教へ始めたまふ。夥多しき群衆、みもとに集りたれば、舟に乘り海に泛（うか）びて坐したまひ、群衆はみな海に沿ひて陸にあり。譬にて數多の事ををしへ、教の中に言ひたまふ、『聽け、種播くもの、播かんとて出づ。播くとき、路の傍らに落ちし種あり、鳥きたりて啄む。土うすき磽地（いしぢ）に落ちし種あり、土深からぬによりて、速かに萠え出でたれど、日出でてやけ、根（ね）なき故に枯る。茨の中に落ちし種あり、茨そだち塞ぎたれば、實を結ばず。良き地に落ちし種あり、生え出でて茂り、實を結ぶこと、三十倍、六十倍、百倍せり』また言ひ給ふ『きく耳ある者は聽くべし』
イエス人々を離れ居給ふとき、御許にをる者ども、十二弟子とともに、此等の譬を問ふ。イエス言ひ給ふ『なんぢらには神の國の奧義を與ふれど、外の者には、凡て譬にて教ふ。これ「見るとき見ゆとも認めず、聽くとき聞ゆとも悟らず、飜へりて赦さるる事なからん」爲なり』また言ひ給ふ『なんぢら此の譬を知らぬか、さらば爭（いか）でもろもろの譬を知り得んや。播く者は御言を播くなり。御言の播かれて路の傍らにありとは、かかる人をいふ、即ち聞くとき、直ちにサタン來りて、その播かれたる御言を奪ふなり。同じく播かれて磽地（いしぢ）にありとは、かかる人をいふ、即ち御言をききて、直ちに喜び受くれども、その中に根なければ、ただ暫し保つのみ、御言のために患難（なやみ）また迫害にあふ時は、直ちに躓（つまづ）くなり。また播かれて茨の中にありとは、かかる人をいふ、すなはち御
言をきけど、世の心勞（こころづかひ）、財貨（たから）の惑（まどひ）、さまざまの慾いりきたり、御言を塞ぐによりて、遂に實らざるなり。播かれて良き地にありとは、かかる人をいふ、即ち御言を聽きて受け、三十倍、六十倍、百倍の實を結ぶなり』
また言ひたまふ『升（ます）のした、寢臺（ねだい）の下におかんとて、燈火（ともしび）をもち來るか、燈臺の上におく爲ならずや。それ顯（あらは）るる爲ならで隱るるものなく、明かにせらるる爲ならで秘めらるるものなし。聽く耳ある者は聽くべし』また言ひ給ふ『なんぢら聽くことに心せよ、汝らが量る量にて量られ、更に増し加へらるべし。それ有（も）てる人は、なほ與へられ、有たぬ人は、有てる物をも取らるべし』
また言ひたまふ『神の國は、或人たねを地に播くが如し、日夜起臥（おきふし）するほどに、種はえ出でて育てども、その故を知らず。地はおのづから實を結ぶものにして、初には苗、つぎに穗、つひに穗の中に充ち足れる穀なる。實みのれば直ちに鎌を入る、收穫時の到れるなり』
また言ひ給ふ『われら神の國を何になずらへ、如何なる譬をもて示さん。一粒の芥種（からしだね）のごとし、地に播く時は、世にある萬の種よりも小けれど、
既に播きて生え出づれば、萬の野菜よりは大く、かつ大なる枝を出して、空の鳥その蔭に棲み得るほどになるなり』
かくのごとき數多の譬をもて、人々の聽きうる力に隨ひて、御言を語り、譬ならでは語り給はず、弟子たちには、人なき時に凡ての事を釋（と）き給へり。
その日、夕になりて言ひ給ふ『いざ彼方に往かん』弟子たち群衆を離れ、イエスの舟にゐ給ふまま共に乘り出づ、他の舟も從ひゆく。時に烈しき颶風（はやて）おこり、浪うち込みて、舟に滿つるばかりなり。イエスは艫（とも）の方（かた）に茵（しとね）を枕として寢ねたまふ。弟子たち呼び起して言ふ『師よ、我らの亡ぶるを顧み給はぬか』イエス起きて風をいましめ、海に言ひたまふ『默せ、鎭（しづま）れ』乃ち風やみて、大なる凪（なぎ）となりぬ。かくて弟子たちに言ひ給ふ『なに故かく臆するか、信仰なきは何ぞ』かれら甚（いた）く懼れて互に言ふ『こは誰ぞ、風も海も順ふとは』
いつもイエスの起こす奇蹟とやらには、少しも関心がありませんでした。いまでも同じです。少しは改めて読むべきかなあ。私は吉本（吉本隆明）さんがこのマルコ傳も書いているから読んでいるのです。それだけのことなのです。
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