次郎長の一家も明治になってからもいろいろなことがあったのですね。読んでいて、それを感じています。
おちょうがぱっちり目をあけて、こちらを見ている。
「先生の話はもういいでしょう。母さん、夜も更けましたよ。とっくに眠っている時間です。さァ薬を飲んで、横になりましょう」
けんはおちょうに薬湯を飲ませた。
やはり私の思うところは当たっているようです。けんの姉のはるには気がついているようです。
………、はるは妹にさぐるような目をむけた。
「あんたはいいのかい」
「いいって？」
「だって、先生は………」
「大昔のことなんか、忘れてしまいましたよ」
でもこういうけんも、そのあとにこうあります。
………。むろん、忘れてなどいない。忘れられたらどんなにラクかとため息をついている。
やっぱり、けんにはいまでも植木は忘れられない人なのです。こんなことって「いくらでもあるよなあ」と思ってしまいます。植木は結婚して、妻も子どももいます。けんは今も一人なのです。
なんだか、この私さえ、せつなく悲しくなります。
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