今日から、この小説は「十六の春」という章になります。昨日までは「次郎長の娘」という章でした。
井戸端の雑草のあいまに、黄色い小花をつけた蛇苺がはっている。
明治二十四年の風光る季節。
この挿絵のように、まだ若い、まだ娘のけんは１６歳の春なのです。私の二人の娘を思い出します。そしてその娘のさらに二人の孫の娘も思い出します。じいじはもう思い出して、また少し涙を浮かべてしまうのです。
<まめったい娘だよ>
母のおちょうが目を細めていうように、けんははたらき者だ。というより、他人に頼む前に自分でやってしまったほうがはやいことを、身をもって知っていた。
でもこうした子ばかりではありません。
初太郎はやせすぎで血色がわるく、反抗的なまなざしとすねたような口元をもつ若者である。………、………、………。
「おれも、ここらでいっちょ、親父をあッといわせねえとナ」
この初太郎が何かするのでしょうか。何をしてもいいわけですが、けんに関係することだと………、と言いましても私はどうにもなりません。私が小説の中には入れないのですから。それに今よりもう１００年も昔のことなのです。
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