この章では、ヘロデ王の前でヨハネの首を盆の上に載せて、サロメが踊ります。でもサロメという固有名詞は書いてないのだなあ。
相変わらず奇蹟を行うイエスです。大勢の男たちにわずかなパンと魚で満ち足りてさせてしまうのです。でも私は子どものときから気になっていたのですが、食べた対象には男しかないことです。女や子どもが入っていないのですね。それがいつも私は不思儀で不満でした。
第６章
かくて其處をいで、己（おの）が郷（さと）に到り給ひしに、弟子たちも從へり。安息日（あんそくにち）になりて、會堂にて教へ始め給ひしに、聞きたる多くのもの驚きて言ふ『この人は此等のことを何處（いずこ）より得しぞ、此の人の授けられたる智慧は何ぞ、その手にて爲すかくのごとき能力（ちから）あるわざは何ぞ。此の人は木匠（たくみ）にして、マリヤの子、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ならずや、其の姉妹も此處（ここ）に我らと共にをるに非ずや』遂に彼に躓（つまづ）けり。イエス彼らに言ひたまふ『預言者は、おのが郷、おのが親族、おのが家の外にて尊ばれざる事なし』彼處（かしこ）にては、何の能力ある業をも行ひ給ふこと能はず、ただ少數の病める者に、手をおきて醫し給ひしのみ。彼らの信仰なきを怪しみ給へり。
かくて村々を歴巡（へめぐ）りて教へ給ふ。また十二弟子を召し、二人づつ遣（つかは）しはじめ、穢れし靈を制する權威を與へ、かつ旅のために、杖一つの他は、何をも持たず、糧も嚢（ふくろ）も帶の中に錢をも持たず、ただ草鞋ばか
りをはきて、二つの下衣（したぎ）をも著ざることを命じ給へり。かくて言ひたまふ『何處にても人の家に入らば、その地を去るまで其處に留れ。何地（いずち）にても汝らを受けず、汝らに聽かずば、其處を出づるとき、證のために足の裏の塵を拂へ』ここに弟子たち出で往きて、悔改むべきことを宣傅へ、多くの惡鬼を逐ひいだし、多くの病める者に油をぬりて醫せり。
かくてイエスの名顯れたれば、ヘロデ王ききて言ふ『バプテスマのヨハネ死人の中より甦へりたり。この故に此等の能力（ちから）その中に働くなり』或人は『エリヤなり』といひ、或人は『預言者、いにしへの預言者のごとき者なり』といふ。ヘロデ聞きて言ふ『わが首斬りしヨハネ、かれ甦へりたるなり』ヘロデ先にその娶（めと）りたる己が兄弟ピリポの妻ヘロデヤの爲に、みづから人を遣し、ヨハネを捕へて獄に繋げり。ヨハネ、ヘロデに『その兄弟の妻を納（い）るるは宣しからず』と言へるに因る。ヘロデヤ、ヨハネを怨みて殺さんと思へど能はず。それはヘロデ、ヨハネの義にして聖なる人たるを知りて、之を畏れ、之を護り、且つその教をききて、大に惱みつつも、なほ喜びて聽きたる故なり。然るに機（をり）よき日來れり。ヘロデ己が誕生日に、大臣・將校・ガリラヤの貴人たちを招きて饗宴せしに、かのヘロデヤの娘いり來りて、舞をまひ、ヘロデと其の席に列れる者とを喜ばしむ。王、少女に言ふ『何にても欲しく思ふものを求めよ、我あたへん』また誓ひて言ふ『なんぢ求めば、我が國の半までも與へん』娘いでて母にいふ『何を求むべきか』母いふ『バプテスマのヨハネの首を』娘ただちに急ぎて王の許に入りきたり、求めて言ふ『ねがはくは、バプテスマのヨハネの首を盆に載せて速かに賜はれ』王いたく憂ひたれど、その誓と席に在る者とに對して拒むことを好まず、直ちに衞兵を遣し、之にヨハネの首を持ち來ることを命ず、衞兵ゆきて、獄にてヨハネを首斬り、その首を盆にのせ、持ち來りて少女に與ふ、少女これを母に與ふ。ヨハネの弟子たち聞きて來り、その屍體を取りて墓に納めたり。
使徒たちイエスの許に集りて、その爲ししこと、教へし事をことごとく告ぐ。イエス言ひ給ふ『なんぢら人を避け、寂しき處に、いざ來りて暫し息（いこ）へ』これは往來（ゆきき）の人おほくして、食する暇だになかりし故なり。かくて人を避け、舟にて寂しき處にゆく。其の往くを見て、多くの人それと知り、その處を指し
て、町々より徒歩（かち）にてともに走り、彼等よりも先に往けり。イエス出でて大なる群衆を見、その牧（か）ふ者なき羊の如くなるを甚く憫みて、多くの事を教へはじめ給ふ。時すでに晩くなりたれば、弟子たち御許に來りていふ『ここは寂しき處、はや時も晩し。人々を去らしめ、周圍（まわり）の里また村に往きて、己がために食物を買はせ給へ』答へて言ひ給ふ『なんぢら食物を與へよ』弟子たち言ふ『われら往きて二百デナリのパンを買ひ、これに與へて食（く）はすべきか』イエス言ひ給ふ『パン幾つあるか、往（ゆ）きて見よ』彼ら見ていふ『五つ、また魚二つあり』イエス凡ての人の組々（くみぐみ）となりて、青草（あおくさ）の上に坐することを命じ給へば、或は百人、あるひは五十人、畝（うね）のごとく列びて坐す。かくてイエス五つのパンと二つの魚とを取り、天を仰ぎて祝し、パンをさき、弟子たちに付して人々の前に置かしめ、二つの魚をも人毎（ひとごと）に分け給ふ。凡ての人食ひて飽きたれば、パンの餘、魚の殘を集めしに、十二の筐（かご）に滿ちたり。パンを食ひたる男は五千人なりき。
イエス直ちに、弟子たちを強ひて舟に乘らせ、自ら群衆を返す間に、彼方なるベツサイダに先に往かしむ。群衆に別れてのち、祈らんとて山にゆき給ふ。夕になりて、舟は海の眞中（まなか）にあり、イエスはひとり陸に在（いま）す。風逆ふに因りて、弟子たちの漕ぎ煩（わずら）ふを見て、夜明の四時ごろ、海の上を歩み、その許に到りて、往き過ぎんとし給ふ。弟子たち其の海の上を歩み給ふを見、變化（へんげ）の者ならんと思ひて叫ぶ。皆これを見て心騷ぎたるに因る。イエス直ちに彼らに語りて言ひ給ふ『心安かれ、我なり、懼るな』かくて弟子たちの許にゆき、舟に登り給へば、風やみたり。弟子たち心の中にて甚く驚く、彼らは先のパンの事をさとらず、反つて其の心鈍くなりしなり。
遂に渡りてゲネサレの地に著き、舟がかりす。舟より上りしに、人々ただちにイエスを認めて、あまねくあたりを馳（は）せまはり、その在すと聞く處々（ところどころ）に、患（わずら）ふ者を床（とこ）のままつれ來る。その到りたまふ處には、村にても、町にても、里にても、病める者を市場におきて、御衣（みころも）の總にだに觸らしめ給はんことを願ふ。觸りし
者は、みな醫されたり。
最後に「觸りし者は、みな醫されたり」とありますが、みんないやされるものなんだなあ。多分、私はいたら、私だけ一人はいやされないなあ。