しばらく聖書から離れていたら（ときどき文語訳舊新約聖書は開いていましたが）、また開きたくなり、イエスその人のことを知りたい思いを抱きました。それでこのルカ傳を開くことになりました。
どうかこれで私もイエスの生涯を知ることができたらなあと希望します。
第１章
我らの中に成りし事の物語につき、始（はじめ）よりの目撃者にして、御言（みことば）の役者となりたる人々の、我らに傳へし其のままを書き列（つら）ねんと、手を著けし者あまたある故に、我も凡ての事を最初より詳細（つまびらか）に推し尋ねたれば、テオピロ閣下よ、汝の教へられたる事の慥（たしか）なるを悟らせん爲に、これが序（ついで）を正して書き贈るは善き事と思はるるなり。
ユダヤの王ヘロデの時、アビヤの組の祭司に、ザカリヤという人あり。その妻はアロンの裔（すえ）にて、名をエリサベツといふ。二人ながら神の前に正しくして、主の誡命（いましめ）と定規（さだめ）とを、みな缺（かけ）なく行へり。エリサベツ石女（うまずめ）なれば、彼らに子なし、また二人とも年邁（としすす）みぬ。
さてザカリヤその組の順番（まわり）に當りて、神の前に祭司の務を行ふとき、祭司の慣例（ならわし）にしたがひて、籤をひき主の聖所（せいじょ）に入りて、香を燒（た）くこととなりぬ。香を燒くとき、民の群みな外にありて祈りゐたり。時に主の使あらはれて、香壇の右に立ちたれば、ザカリヤ之を見て、心さわぎ懼を生ず。御使いふ『ザカリヤよ、懼るな、汝の願は聽かれたり。汝の妻エリサベツ男子を生まん、汝その名をヨハネと名づくべし。なんぢに喜悦（よろこび）と歡樂（たのしみ）とあらん、又おほくの人もその生るるを喜ぶべし。この子、主の前に大ならん、また葡萄酒と濃き酒とを飮まず、母の胎（たい）を出づるや聖靈にて滿されん。また多くのイスラエルの子らを、主なる彼らの神に歸らしめ、且エリヤの靈と能力（ちから）とをもて、主の前に往かん。これ父の心を子に、戻れる者を義人の聰明（さとき）に歸らせて、整へたる民を主のために備へんとてなり』ザカリヤ御使にいふ『何に據りてか此の事あるを知らん。我は老人（としより）にて、妻もまた年邁（すす）みたり』御使こたへて言ふ『われは神の御前（みまえ）に立つガブリエルなり、汝に語りてこの嘉き音信（おとづれ）を告げん爲に遣さる。視よ、時いたらば必ず成就すべき我が言（ことば）を信ぜぬに因り、なんぢ物言へずなりて、此ら
の事の成る日までは語ること能はじ』民はザカリヤを俟（ま）ちゐて、其の聖所の内に久しく留るを怪しむ。遂に出で來りたれど語ること能はねば、彼らその聖所の内にて異象を見たることを悟る。ザカリヤは、ただ首にて示すのみ、なほ唖（おふし）なりき。かくて務の日滿ちたれば、家に歸りぬ。
此の後その妻エリサベツ孕（もごも）りて、五月ほど隱れをりて言ふ、『主わが恥を人の中に雪（すす）がせんとて、我を顧み給ふときは、斯く爲し給ふなり』
その六月めに、御使ガブリエル、ナザレといふガリラヤの町にをる處女（おとめ）のもとに、神より遣さる。この處女はダビデの家のヨセフといふ人と許嫁せし者にて、其の名をマリヤと云ふ。御使、處女の許にきたりて言ふ『めでたし、惠まるる者よ、主なんぢと偕に在せり』マリヤこの言によりて心いたく騷ぎ、斯かる挨拶は如何なる事ぞと思ひ廻らしたるに、御使いふ『マリヤよ、懼るな、汝は神の御前に惠を得たり。視よ、なんぢ孕りて男子を生まん、其の名をイエスと名づくべし。彼は大ならん、至高者の子と稱へられん。また主たる神、これに其の父ダビデの座位をあたへ給へば、ヤコブの家を永遠に治めん。その國は終ることなかるべし』マリヤ御使に言ふ『われ未だ人を知らぬに、如何にして此の事のあるべき』
御使こたへて言ふ『聖靈なんぢに臨み、至高者（いとたかきもの）の能力（ちから）なんぢを被（おほ）はん。此の故に汝が生むところの聖なる者は、神の子と稱（とな）へらるべし。視よ、なんぢの親族エリサベツも、年老いたれど、男子を孕めり。石女といはれたる者なるに、今は孕（みごも）りてはや六月（むつき）になりぬ。それ神の言には能はぬ所なし』マリヤ言ふ『視よ、われは主の婢女（はしため）なり。汝の言（ことば）のごとく、我に成れかし』つひに御使はなれ去りぬ。
その頃マリヤ立ちて山里に急ぎ往き、ユダの町にいたり、ザカリヤの家に入りてエリサベツに挨拶せしに、エリサベツその挨拶を聞くや、兒は胎内にて躍（をど）れり。エリサベツ聖靈にて滿され、聲高らかに呼はりて言ふ『をんなの中にて汝は祝福せられ、その胎の實（み）もまた祝福せられたり。わが主の母われに來る、われ何によりてか之を得し。視よ、なんぢの挨拶の聲、わが耳に入るや、我が兒（こ）、胎内にて喜びをどれり。信ぜし者は幸福（さいはひ）なるかな、主の語り給ふことは必ず成就すべければなり』マリヤ言ふ、
『わがこころ主をあがめ、
わが靈はわが救主なる神を喜びまつる。
その婢女の卑しきをも顧み給へばなり。
視よ、今よりのち萬世（よろずよ）の人われを幸福（さいはひ）とせん。
全能者われに大なる事を爲したまへばなり。
その御名（みな）は聖なり、
そのあはれみは代々（よよ）
かしこみ恐るる者に臨むなり。
神は御腕（みうで）にて權力（ちから）をあらはし、
心の念に高ぶる者を散（ちら）し、
權勢（いきおひ）ある者を座位（くらひ）より下（おろ）し、
いやしき者を高うし、
飢ゑたる者を善き物に飽かせ、
富める者を空しく去らせ給ふ。
また我らの先祖に告げ給ひし如く、
アブラハムとその裔（すえ）とに對する
あはれみを永遠（とこしえ）に忘れじとて、
僕（しもべ）イスラエルを助けたまへり』
かくてマリヤは、三月ばかりエルザベツと偕に居りて、己が家に歸れり。
さてエリサベツ産む期みちて男子を生みたれば、その最寄のもの親族の者ども、主の大なる憐憫をエリサベツに垂れ給ひしことを聞きて、彼とともに喜ぶ。八日めになりて、其の子に割禮を行はんとて人々きたり、父の名に因みてザカリヤと名づけんとせしに、母こたへて言ふ『否、ヨハネと名づくべし』かれら言ふ『なんぢの親族の中には此の名をつけたる者なし』而して父に首にて示し、いかに名づけんと思ふか、問ひたるに、ザカリヤ書板を求めて『その名はヨハネなり』と書きしかば、みな怪しむ。
ザカリヤの口たちどころに開け、舌ゆるみ、物いひて神を讃めたり。最寄（もより）に住む者み
な懼をいだき、又すべて此等のこと遍くユダヤの山里に言ひ囃（はや）されたれば、聞く者みな之を心にとめて言ふ『この子は如何なる者にか成らん』主の手かれと偕に在りしなり。かくて父ザカリヤ聖靈にて滿され預言して言ふ、
『讃（ほ）むべきかな、主イスラエルの神、
その民をかへりみて贖罪をなし、
我らのために救の角（つの）を、
その僕ダビデの家に立て給へり。
これぞ古へより聖預言者の口をもて言ひ給ひし如く、
我らを仇より、凡て我らを憎む者の手より、取り出したまふ救なる。
我らの先祖に憐憫（あはれみ）を垂れ、その聖なる契約を思し、
我らの先祖アブラハムに立て給ひし御誓（みちかひ）を忘れずして、
我らを仇（あた）の手より救ひ、
生涯、主の御前に、
聖と義とをもて懼なく事（つか）へしめたまふなり。
幼兒（おさなご）よ、なんぢは至高者（いとたかきもの）の預言者と稱（とな）へられん。
これ主の御前に先だちゆきて、其の道を備へ、
主の民に罪の赦（ゆるし）による
救（すくひ）を知らしむればなり。
これ我らの神の深き憐憫（あわれみ）によるなり。
この憐憫によりて朝のひかり、上より臨み、
暗黒（くらき）と死の蔭とに坐する者をてらし、
我らの足を平和の路にみちびかん』
かくて幼兒は漸（やや）に成長し、その靈強くなり、イスラエルに現るる日まで荒野（あらの）にゐたり。
思い出せば、私がいた秋田と札幌の幼稚園では、よくこのイエスのことは教えてはくれなかったなあと思い出します。
いつも私は、「なんであんなつまらない話をしているのかなあ？」としか思っていなかっ
たと記憶しています。この歳になって、こうして知ることができて、私は嬉しいです。
