次郎長はけんと植木が一緒になろうとすることには反対ではないくのです。そうするとおちょうが反対なのでしょうか。でも次郎長は初志郎は大事なのです。次郎長はやはり、血を分けた初志郎が愛しいのだ。それは、顔を見ればあきらかだった。けんの胸もあたたかくなる。
けんは次郎長にいいます。「どうしてもッ。どうしても先生のお嫁さんになりたいんです。お父ちゃん、お願いしまう。
私もこのけんの言い方にものすごく嬉しく大賛同です。でも現実はそうはならなかったのですから、どうしてなのでしょうか。おちょうが反対したのかなあ。「おみゃといっしょになって、先生さんが清水に居着いてくれりゃァ万々歳だけェがなァ。そいつもまァ、ええか、よくなるようになるずら」
この次郎長の言い方だとおちょうがどういう意思だろうと、けんが植木と一緒になるのは問題ないはずです。植木自身もなりたいといっている。おちょうの反対の意見とは、やはり現実には博徒の娘とは、植木はなれないだろうということかなあ。これは、もはや明治時代のもうこれだけ経っているのに、武士だなんだっているのがおかしいのです。
この挿絵を見て、「次郎長」も歳とったなあ」と感じました。その私の思いが同じことが書いてあります。 ……。いつも意気軒昂で老いをかんじさせない次郎長が、この日はひとまわり体がちぢんで、歳相応の老爺に見えた。
私も今は６５歳です。回りからは、私も歳相応に見えているのかなあ。「お父ちゃん、ハナシって？」
「おう、けんか。そこの箱に座れや」
しかしこの小説の植木のように、「士族」というのは実にろくでもないですね。 植木は婿養子になれないわけを話したそうで、それについては五郎も賛成したという。
ご維新から四半世紀がすぎていた。士族という肩書はのこっているものの、昔のように家名にしがみつく風潮はない。
けれどもそれは建前だ。士族にかぎらず、家を尊重し家名をのこそうというかんがえは、脈々とうけつがれている。
つまり、けんにかわる跡継ぎが決まり、親親戚縁者が納得しさえすれば、次郎長はよろこんでけんと植木の結婚を承諾するだろうというのが、五郎のかんがえだった。
だから、それには初志郎が次郎長の清水家を継ぐことなのです。でも初志郎は大丈夫なのかなあ。けんも「初兄ちゃん、大丈夫かなァ」
というように不安だらけです。
けんと植木の仲をどうにかしてほしいと希望します。でもそれはできない現実になってしまったのですね。 昨日は眠れなかった。が、そのおかげで、五郎に植木とのことを打ち明けて助太刀をたのもうとおもいついた。五郎がやってきたことも、単なる偶然とはおもえない。
でも五郎は、「植木先生のことだろう」
と予想しているのです。実は先に植木から相談されているのです。そうすると、植木にもその気が充分あったのだ。私が昨日「武士という存在を私は恨みます」と書いたのは、どうやら植木には当てはまらないようです。
けんは五郎に聞きます。五郎は植木に、こう応えたといいます。「まかせてくれ、と」
これでうまくいってほしいな。でも現実はそうはいかなかった。だからおちょうが「わるかった」と今も反省後悔しているのかなあ。
この「初志郎に唇を奪われた」ということがけんには大きなことなのです。 茶の間へはもどらないで、音をたてないよう、奥の座敷へ入った。寝床に仰臥して、天井の闇に視線をさまよわせる。
どうしても読んでいる私もこの事態がものすごくけんの今の感じがつかめます。感じられます。「なんだか気分がわるくて……」
けんは鼻先まで布団をひきあげた。見破られるはずもないのに、くちびるをおちょうの目からかくそうとする。
……、けんの目も冴えてきた。
初志郎がいけないのだけど、植木の武士を捨てられない思いを恨みます。武士という存在を私は恨みます。こんなことは私は許せないです。私は今も武士を誇っている彼に手紙を書こうかな。武士に誇りを持つことがどう許せないことなのか。
私もこういう初志郎は嫌になります。初志郎は昔も今も、けんならいいなりになる、ゆるしてくれると思っているのだ。 一番最初に書いてある けんはにらみかえした。その目の中に断固とした拒絶の意を見て、初志郎は凍りついた。
が分かります。そんなやわな少女ではないのです。けれど、これでわかったはずだ。昔のけんはもういない。
けんのいう「わたしには好きな人がいるの」
という言葉には、私も実に応援したくなります。
昨日私が書きました「これはおようだろうな」は外れてしまいました。初志郎だったのです。 井戸端に初志郎がいた。
こちらに背をむけてたたずんでいる。心もち丸くなった背中は、これまでになくしょんぼりして見えた。
「…、……。おれはおめえと夫婦になる」
「いやよ、なるものですか。死んでもイヤッ」
これでおちょうがけんに「すまない」という気持を持っていることなのですね。これじゃ初志郎のことを嫌ってしまうけんの気持がわかります。けんには、初志郎はお兄ちゃんなのです。そして心の中には植木がいるのです。
今日の新聞を目にして、真っ先に挿絵の子規の顔のそばにある俳句を読み上げました。植木と五郎は、ひと目で意気投合したようだった。……。…………。…………。しかも正岡子規や夏目漱石など、共通に知人がひとりならずいる。
五郎と植木は話が合うようです。それが初志郎には気にいられないようです。彼は次のようです。 ひとりだけ除け者にされているような気になって、長屋にひきあげてしまったのだ。それならかえって安心である。
ところが酒のおかわりをとりに台所へゆくと、勝手口の戸が開いていた。閉めようとして、けんははっと目をみはる。
この回は実にいい話です。正岡子規の話も出てきます。そうなのだなあ。私は正岡子規はけなしてばかりいるので、私が子規がただ嫌いだと思っている人がいるかもしれませんが、私は子規が万葉集のみを讃え、古今・新古今を貶すのが気に入らないのです。この傾向がずっと蔓延しているように思えたものなのです。 天田五郎は、このたびの清水来訪を、親友の中井俊之助にだけ知らせていたという。
五郎は中井と伊豆下田にあそびに行くということなのです。伊豆下田は私も二度行ったことがあります。いいところだななという思いがあります。「夕飯におみえになりますよ」
「ほれ、けん、尾頭付きはでっけいのだぞ。なけりゃ、芝栄にもぐってとってこいといえ」
茶菓をくばったあと、三人の話に耳を傾けていたけんは、次郎長に追いたてられて隣家へとんでゆく。
天田五郎が久しぶりに訪ねてきて、次郎長とおちょうの思を私も喜びます。 茶の間では、次郎長とおちょうが、天田五郎との再会をよろこびあっていました。
今日の書いてあることで、五郎の生涯が理解できました。彼は今京都に住んでいるのです。人の命のはかなさにおもうところがあったのか、京都の寺で頭を丸め、産寧坂に庵を結んだ。
京都の三年坂はよく思い当ります。昔から京都を訪れたときは必ず二年坂、三年坂は歩いていました。「…………。それから酒も……何酒樽が空っぽ？ ええィ、着物でも下駄でも、なんでも質屋へもっていけ」
次郎長の歓迎ぶり気持がが分かります。
天田五郎に会うのは次郎長にとっても実に嬉しいようです。おちょうも同じ思いでしょう。「すいませんねえ。ちょっと、今、すぐに、呼んでまいります。あれじゃァほんとに……」
一刻も早く五郎の顔を見たいのは、おちょうもおなじだ。そさくさと階段をおりてゆく。
「母さん、ねえ母さんってば……」
けんはとりのこされてしまった。
けんも尻をもぞもぞさせた。
という存在なのです。 ふたりを玄関で見送るや、けんも待ちかねたように茶の間へ駆け込む。
いいなあ。思えば、当時はケータイもメールもないわけですから（手紙は書けたはずですが）、こうして直接会えることが実に貴重なことなのでしょう。
翌日宿を頼みに来ました僧がいました。天田五郎です。彼は次郎長と富士の開墾をやっていたのです。それが僧侶になったのでした。もとは次郎長の養子でした。けんは小さいときに会っているのです。 笠を脱いだ僧の顔に見覚えがある。頭を丸め、見なれた髭こそ剃りあげているものの、彫りの深い顔貌に炯々としたまなざしは──。
「五郎兄さんッ」
「お、おう、けんか。こいつはおどろいた。最後に会ったときは小っこい子供だったが……」
こういうひさしぶりに会うことを読むと、実に私もいくつも思い出してきます。久しぶりで私も内心は驚いているのですが、とにかく私の氏名を言ってみると、相手こそが驚いているのですね。けんは五郎のうしろへまわり、背中を押すようにして茶の間へ案内する。五郎が甲掛け草履をぬぐあいだに、二階へ駆けのぼった。
こうして懐かしい顔に会えるけんの心を思います。嬉しいだろうな。
「先生は、おようさんに洗い物をしてもらってるんですか」
とがめるつもりはなかったが、聞かずにはいられなかった。
「暗くならないうちに、おけんさんも、ね、いっしょに失礼しましょうよ」
声をかけられれば、いやとはいえない。
けんはしぶしぶながら植木の家をあとにした。
せっかくの水入らずのひとときは、おようの出現で尻切れとんぼになってしまった
」
洗い物──。
おようのしたしげな口調に、けんはおもわず顔をしかめた。が、植木は平然としている。
「おう、おようさんか。いつも「すまんのう」
大声で返事をした。
おようは大仰におどろいて見せたが、けんはわざとらしさをかんじた。勝手口にけんの下駄がある。おようはけんがいるとわかった上で、ふたりの話を立ち聞きしていたのではないか。
自分のほうが植木をよく知っているといいたげな口ぶりに、けんはかちんときた。
けんの思いはよく分かります。けんこそが植木と結ばれないといけないのです。私もおようにはもういらいらしっぱなしです。
けんが必死で言った思いに当初は、 時は止まった。沈黙がながれた。
というので、「けんはことわられるかとおもった
」との思いです。でも植木は「親方から養子に再三、打診された。しかしそれだけは……とことわった
」というのです。でもこうなのです。けれど不羈奔放な植木にも、武士の血が流れている。
こんなことが私にはどうしても許せないです。嫌です。私は武士なんて大嫌いです。私の尊敬する平将門様は、農民でした。その農民として平安期の朝廷軍と戦いました。新皇と称えて。日本の歴史の中で新皇と称えたのは、先にも後にも平将門様しか存在しません。
「先生─ッ。洗い物、ありませんか」
少し鼻にかかった声は、おようだった。
この回はけんが思い切って植木に自分の思いを伝えます。私は植木にどう応えるのだと激しく迫りたいです。けんは言います。「横浜へゆくときは、わたしもいっしょにつれていってください」
けんはおもいきっていった。
けんはこみあげたものをぐっと呑み込んだ。
「先生。わたしをお嫁さんにしてください」
この今日のこの「波止場浪漫」の挿絵を見ていて、かなりあとで気がつきました。この今日の挿絵は、若い綺麗な女性が書いてあるわけですが、これはみんな（四人ですが）けんなのですね。「あ、そうか」とあとで気がついたのです。なんか、すぐ分からなくて情けないです。
けんの植木への思いを考えます。「先生のお手伝いができる──。
」こうしたことで、嬉しくなってしまうけんなのです。でも植木の医院はもう患者さんでいっぱいです。植木医院は患者でざわついていた。
「よろしくたのむ」
まともに顔を見ていわれたのは、最初の一度きり。
植木とけんがふたりきりになれたのは、西陽が低くなってからだ。
「では、おけんさんの相談を聞こうか」
真顔をむけられて、けんはどきまぎした。
こんなのが医師としてはいい姿なのでしょうね。
けんももう慌ただしくなってきました。初志郎との縁談は、近々、親族から次郎長に正式に申し入れがあるという。次郎長が承諾すればけんにいいわたされる。今はまだ知らないことになっているので初志郎ともぎくしゃくせずにすんでいるが、ことわればどうなるか。
これはやっかりですね。 清水寺の舞台からとびおりるような覚悟でいったものの、植木は難色を示した。
「嫁入り前の娘が男の家を訪ねては、おけんさんの評判にかかわるぞ」
「評判なんて……平気です」
「そうはいかん。親方が心配する」
なんだか哀しい思いになります。日本人は、いや人間というのは、こうした哀しい存在なのでしょうか。 骸は役人衆の手ではこびだされた。
騒ぎはしずまった。
「先生は横浜へいったりしないでしょう？」
にわかに心配になった。
「さあねえ……先生は、清水は遅れてる、新しい医術を身につけないと助かる者も助けられんってなげいてらしたから……」
悲しすぎるのです。テレビでは仲代達也が亡くなった娘に泣くシーンです。悔しい哀しい嫌だと思うばかりです。ああ、私は今日昼にはおはぎの家へ行きます。お熱があって寝ているポニョとそれを診ているばあばに、美味しい明治堂のパンを届けるのです。
私はものすごい思い込みをしてしまいました。「今日もまだ分からないのです」なんて書いていました。「おけんさんも見覚えがあるはずだ」
「あッ」
突如、記憶がよみがえった。去年か、いや、おととしだったか、植木の治療をうけていた女だ。
「病気を苦にして死んでしまったのですね。先生が薬はない、といったから」
植木のいうことには何かせつない思いになります。「医者などなんの役にも立たんな」
なんか虚しさ、淋しさを感じます。でもそれでも人間は変わっていくはずなのです。医学は少なくとも多くのことを成し遂げてきました。でもこの女性にはまだまだ「何もできない」としか思えなかったのです。
今日もこの波止場に身投げしたのがおようとは書いてありません。「どうしたッ。しっかりしろッ」
たどりついたはよいが勝手口にうずくまってしまったけんを、気配を聞きつけて診察室から出てきた植木が抱え起こした。
「すみません。吐き気が……」
「横になるといい。水を飲みなさい」
「そんなことより先生、土座衛門です」
「おけんさんはなにを見ても動じぬとおもっとつたが……やはり女子（おなご）だったのう」
「動じたんじゃありません。足首にゆわえた腰紐をおもいだしたら胸がいっぱいになって……」
「覚悟の投身か。身元がわかればよいのだが……ご家族のもとへ早う帰してやらんとな」
昨日「まだおようとは書いてありません」と言いましたが、今日もまだ分からないのです。「親父っさーん、ひきあげやーッ」
呼び声を聞くや芝栄は駆けだした。けんもあとを追いかける。もしや、顔見知りかもしれない。
…………。昨年は初志郎が、陰で文句をいいながらも神妙にはたらいていた。それがこれまでの汚名をすすいだかたちとなって、けんとの縁談が現実味をおびてきたのだろう。
これはカラムシ畑を作っている次郎長の元で初志郎もやっているのです。でも溺死体がおようと分かったときは、どうなのでしょう。そしてそれが真っ先に分かる植木の驚きはどうなのでしょうか。
今ごろになって吐き気におそわれる
とあります。そして真実が分かったときのみんなの驚きを想像します。 思えば、このことが植木とけんが結ばれないことになったのでしょうね。
今日の作品の展開でも亡くなったのがまだおようとは書いてありません。はじめは、人形が沈んでいるのかとおもった。もしそうでないなら……けんは両手をおよがせて尻餅をつき、ぶざまに尻ずさりした。
この光景もよく分かります。目に見えるような思いになります。
「とびこむ」
「突き落とされたんでなきゃ、自分でとびこんだんだ。どこにどなたか知らんけェが気の毒に」
私は最後を読んで声をあげてしまいました。けんが防波堤の突端まで歩いてきて、そこに着物を見るのです。その海の中に見るのです。 妖しいゆらめきにひきよせられるように、けんは近づいて膝をついた。両手で堤の縁をつかんでのぞみこむ。眸をこらしたとたん、自分の声とはおもえぬ悲鳴をあげていた。
それは私は思うのです。それはおようの身投げした死体ではないでしょうか。おようは初志郎がいうようにあばづれな娘ではなかったのです。それに植木もいけなかったのかもしれません。
いや植木も悪いのではありません。ただこうなってしまったのです。
今日の挿絵を見て、「え、けんは結婚になるのか？」と思いましたが、すぐそばにけんが映っていて、安心しました。初志郎と結婚なんかしちゃあ駄目です。 ふらふらとたよりない初志郎に、勝ち気で働き者のけんを娶らせようというのは、おもえばまんざらおかしなハナシではなかった。
そうはいっても──。
けんが夫婦になりたいのは植木先生で、初志郎ではない。
「とにかくかんがえてみとくれよ」
「かんがえてたって……イヤッ、やっぱりいやだ」
おちょうは話を打ち切った。正式に縁談がもちこまれたわけではない。とはいえ、けんはもう、墓参どころではなくなっていた。
昨日の私が書いたおちょうがいうことが歯切れがわるかった
というのが今日分かります。おちょうがいいだすのが、相手が初志郎なのです。けんは、「えッ、初兄ちゃん？」と驚きます。「兄ちゃん兄ちゃんというけれど、おまえたちは兄妹じゃありませんよ。血のつながりもないし、戸籍上も桜井初志郎なんだし……」
初志郎は次郎長の妾腹の子で、生まれてほどなく桜井家へ里子にだされたと聞いている。けんはおちょうの姪だから、ふたりの血縁はない。
「もう終わったことです。初志郎も、あれは若気の至りだった、すっぱり手を切ったから二度と逢わないと約束しました。……………………」
これは驚くことなのです。私は、おはぎが長女のポニョに「おにいちゃんとは結婚できないよ」と言い切っていたことを思い出しました。他にもこうした兄妹がいることを私は知っています。
みんな仲が良くて、でも子どものときに、結婚はできないと聞いて驚いているものです。
けんの植木への思いが書いてあります。「 けんは植木に、一途なおもいをよせていた。
以下のようにけんが思うのはうなずけます。 植木先生のお嫁さんになりたい──。
思いはいつしかふくらんでいた。
「…………、おまえがこの清水で末廣をつづけてゆくのにはどうしたって親類縁者の助けががいるんだから……」
でもおちょうはこのあとがどうも言いきれていません。おちょうは武家そだちで、肝（はら）のすわった女だ。いつもは凛としていて、きぼきび物をいう。それがきょうは歯切れがわるかった。
おちょうも、結果としては植木を山本家では受け入れられないことをけんには強烈には言い切れないのです。
この回では、おちょうがけんの縁談を言い出します。曼休和尚がおはるを本堂のほうへ借ります。おちょうがけんと二人きりで話があるのです。曼休和尚とおちょうではこういう話になっていたようです。 案の定、和尚とはるがいなくなると、おちょうは居住まい正した。
けんもおもわず背筋を伸ばしている。
「ハナシとはおまえの縁談です」
……、けんはあれ以来、やきもきしどうしだった。初志郎と手をきったおようが、今度は植木につきまとっているからだ。初志郎が大げさに注進するほどふたりが親密だとはおもえないが、それでも気がもめる。
これでは、おちょうが気がもめるのは分かります。これでおちょうがけんに「まずいことをしてしまった」と思うのは当然なのです。実際に、二人は結ばれずに、けんは今も独り身なのです。植木はもう家族がいます。これはおちょうの今の思いはどうしても分かってしまうのです。
今日から「十八の春」という章になります。けんが十八の時の話です。次郎長は若いころ家をすてて渡世人になった。無宿者から堅気にもどり、清水へ落ちついたのはご維新に直前で、その後、初代おちょう、二代目おちょうの墓を建立している。
今のおちょうは三代目なのですね。「ずいぶん熱心だこと」
おちょう以上に長々と合掌するけんを見て、はるは首をかしげた。