いつもこの堺屋太一と内田康夫の連載小説を読んでいるのですが、どうしても内田康夫のほうが読みやすいのです。
それは、どうしても「チンギス・ハン」というようにカタカナで書かれる登場人物がそれほど私たちには身近な存在としてはなれていないということにあるかと思います。織田信長や豊臣秀吉は、何度も活字化されていますし、そしてテレビでも何度も登場しています。それにくらべて、成吉思汗は私たちにはよく知っている人物としても、他の登場人物はほぼ私たちには初対面と言っていい人物ばかりです。
このことが、どうしても毎日の展開にかなり熱心に向き合っていないと理解をはずれてしまうところがあるわけです。「あ、この人物はどういう人だっけ」と思っても、新聞では前の登場箇所を探すのも大変なことです。
だがそうだとしても、今回はかなりな興味を持てたところでした。
書 名 世界を作った男 チンギス・ハン（328）2007.01.04
著 者 堺屋太一
絵 大沼映夫
掲載紙 日経新聞朝刊
この回は、やはり堺屋さんらしい展開内容です。
人類に人類らしい文明を与えた要素は六つある。(１)弓矢、(２)加熱加工、(３)牧畜、(４)農耕、(５)文字、(６)通貨だ。
人類はまず、弓矢を持つことで、何の動物よりも圧倒的に優れた戦闘力を備え、運動の原理や組織行動を修得した。
また、火を加えて土器を造り、食べ物を調理することを知り、加工の技術と習慣を得た。恐らく蓄財の発想もここから生まれたものだろう。
次いで牧畜、つまり他の動物を意に従わせる術を得た。この発想と技術と習慣こそ、人類社会の階級化へと発展させる。
やがて──今から一万年ほど前─農耕がはじまり、人類の文明は飛躍する。これによって人類の文明は飛躍する。これによって人類は、計画性、設計力、暦と数学の概念を持つ。
それから数千年後、人類は文字を発明、記憶と英知と怨念を蓄積し、言葉を文法のある原語として広く長く伝えることができるようになった。
それから、それからあまり経たないうちに通貨を発明する。これによって物財や役務の交換が確実になり、普遍的な好意の表現が用意になり、階級制度と国家運営が確立される。
ただし、こう書かれてはいても、このチンギス・ハンのいるモンゴルは、いわばこの流れの通りに時代を歩んできた中華文明とは違ったのです。
その中華と最も早く深く接した漠北の民だけは、何一つ取り入れなかった。農耕も文字も宗教も国家組織も、倫理観や美意識も真似なかった。漠北の民は農耕文明に無知だったのではない。よく知るが故に軽蔑していたのだ。
チンギス・ハンは中年以降、文字を創り、通貨を広め、国家組織を確立する。だがそれは中国や中東の模倣ではなく、「フェルトの家の民（漠北の民）」の慣習と感覚から生まれたものだ。チンギス・ハンとその帝国の征服意欲と軍事力の強さは、いわば創造性から生まれるのである。
この「創造性」をこれから解説してもらえるのかなあ、と思っています。
思えば、この時代はイスラム教が大きくアジア・中東を覆っていました。そこをチンギス・ハンはすべて征服してしまうのですね。
そしてフビライの時代には、中国全土をも征服支配してしまいます。
ただ、中国全土を支配したときに、モンゴルではなく、元という中華の帝国になったのだと思います。
そのことは、今後の展開の中で予見できていくのかなあ、なんて興味深いところです。
