第一作の『男はつらいよ』が驚くほどの大ヒットになり、同じ年の３カ月後に公開されたのが、この『続男はつらいよ』でした。だから寅さんの恩師は、坪内逍遥ではなく、「散歩」という名であり、秋子ではなく、「夏子」なのです。簡単でいいねえ。「簡単でいいねえ」というか、こんなのでいいのかなあ。
前作の『男はつらいよ』がかなりな大ヒットだったということで、前作と同じ１９６９年の１１月１５日に『続・男はつらいよ』が公開されました。私は１２月１０日に浦和地方裁判所の前で逮捕状を示されて逮捕になりました。
前日は徹夜のアルバイト（ある精神病院の看守）でしたから、パトカーに乗りましたら、すぐに眠り始め、埼玉県朝霞警察署に拘留されたものでした。
この映画は翌年（１９７０年）の秋に見ていたかと思います。
題名 続・男はつらいよ
封切 １９６９年１１月１５日
監督 山田洋次
音楽 山本直純
撮影 高羽哲夫
配給会社 松竹
キャスト
車寅次郎 渥美清
諏訪さくら 倍賞千恵子
車竜造 森川信
車つね 三崎千恵子
御前様 笠智衆
諏訪博 前田吟
坪内夏子 佐藤オリエ
たこ社長（梅太郎）太宰久雄
源吉 佐藤蛾次郎
川又登 津坂匡章
お菊 ミヤコ蝶々
坪内散歩 東野英治郎
藤村薫 山崎努
この映画は、私には辛く悲しい内容でした。寅さんは最初に言います。
天に軌道のある如く人それぞれに運命があり、私ことフーテンの寅、望郷の念やみがたく、再び帰ってまいりました。
これを聞いて、このときは少しは私も心が晴れる思いでした。
寅さんの小学生のときの恩師坪内散歩先生が登場し、その娘の夏子は寅さんの幼馴染みなのです。この夏子を演じる佐藤オリエは私はどうにも好きになれない女優さんでしたが、この作品で途端にファンになったものです。
思えば、私はいつもそんな感じでたくさんの女優さんを見ているのだなあと反省するばかりです。この佐藤オリエは、私が「この女優は日共ではないか」と思い込んでいたことにあります。思えば、そんな私の価値判断がどうかしているのです。
この『続・男はつらいよ』には、大きなテーマが二つあります。一つは、毎回パターン化する、寅がマドンナに惚れて恋してうまくはいかないで、寅が最後に柴又を去っていくということと、そして今回は、寅がはるか昔に生き別れてしまっただろう、母親との出会いとそして別れなのです。
寅さんが失恋するのは毎回のことですが、でも大変になんだか悔しいけれど今回も仕方ないかなあ。寅さんが腹痛か何かで医院に担ぎ込まれ、そこの医者が夏子と結ばれてしまうのです。寅さんは、いつもの通り、二人のキーピッド役なのですが、でもまったくその認識はありません。
でも同時に、寅の産みの親は、お菊といい、いわばこの瞼の母との出会いならいいのですが、お菊は京都のラブホテルの経営者であり、寅には悪態をつきます。何か見ている私たちも悲しくなってしまうのです。久しぶりの再開なのに、どうしてこうなってしまうのでしょう。寅は、この母親との再会話を悲しく悔しく何人にも何度も語ります。
でもそのときに、唯一の希望であった夏子との縁も、藤村薫が得てしまうのです。
最後寅がさくらにいうセリフが以下なのです。
顔で笑って心で泣いてってよ…そこが渡世人のつれえところよ。
寅さんの映画は、笑うことではなく、どうしても泣いてしまうのです。いったい何度私は泣いてきたことでしょうか。
